「ブルースティール1:IDF T-55とティラン戦車」

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「南レバノンのT-55戦車」と副題が付けられているレバノンBLUE STEEL社刊行の写真集。主にレバノンのキリスト教民兵組織南レバノン軍(SLA)が使用したティラン4/5戦車(別名Ti67戦車)とその派生車輌のフォトが収録されています。冒頭にはイスラエル軍がアラブ諸国からの戦利品として得た多数のT-54/55戦車を改装、自国車輌として再就役させたティラン戦車の開発について簡潔にまとめられ、またこの車輌が親イスラエル派の民兵集団に供与され更に改修を重ねたことにもページが割かれて解説されています。

その立場の変転ぶりを示すかのように多くの車輌は「疲れ果て」た状態で撮影されています。長く使い込まれ、激しく傷つき、破棄されて錆び付いた様相、特に装甲部分と非装甲部分(燃料タンク、雑具箱など)に於ける経年劣化の違いといった物理的な側面もさることながら、ヒズボラほかイスラム教民兵組織に再度奪還され示威的な展示目的に使用されていたり巨大なホメイニ師のポスター(パネル?)の据え付け台座に利用されたりと生々流転にも程がある実戦場ならではのホットな記録で、(いささか陳腐な文言ではありますが)ダメージ表現の参考にまたディオラマのアイデアにと、モデラー視点ならではの活用に向いた一冊ではあります。

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表紙にもなっている青みがかったグレー塗装を施したティラン5。増設された砲塔機銃架に注意。砲塔・車体各所に植え付けられているのは有名なブレイザー・リアクティブ・アーマー取り付け基部ボルトなのですが、本文中のキャプションに依ればイスラエル軍はSLAに反応装甲自体は供与しなかったとのことです。運用面の問題なのか南レバノンという地域が微妙な立場に置かれていたことの証左なのか、民兵組織に西欧規格の105ミリ戦車砲装備車輌(ティラン4/5Sh)が供与されなかったのも決して当地の補給事情に従っただけではないのかも知れないなと、わずかな写真とキャプションからでも様々なことが推測できる、面白い内容になってます。

単純にモデラー視点で面白かったのは南レバノン軍の手によって独自に改修された派生車輌で、本書では2種類のAPC(装甲兵員輸送車)が紹介されています。ひとつはT-55車体から砲塔を撤去しオープントップの戦闘室を設けた「ティランAPC」と呼ばれる装甲車の行動中、まさに生きた状態を撮影した写真が掲載されてます。もう1種は主砲だけを撤去して砲塔はそのままに残し、銃眼と視察孔を新たに開口した重装甲の戦闘車両です。(本書ではこの車輌を「後期型APC」として紹介していますが、実際にはこれ兵員輸送車ではなくナグマチョンのような市街戦用AFVではないかと思われます)どちらもイスラエル式のいわゆる「魔改造」車輌なのですが、イスラエル軍の制式装備ではないので類書にはなかなか登場しない貴重な存在かと。特に後者は鋳造砲塔を文字通り切り開いて設けた銃眼の処理も荒々しく、現代ではなかなかおめにかかる事が出来ない野戦改修車輌の趣を伝えてくれます。

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巻末にはタミヤのT-55をベースにしたのか、この車輌(なにしろ名前すら無い)の改造作例が載ってます。連続写真だけで製作記事の程をなしてはいないのですが、レバノンという軍事・政治的にホットな地域で戦車のプラモデルを趣味的に作る姿勢にはご苦労様ですと言いたくなります…

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