「恐竜博2011」

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恐竜強化月間その3ということで、上野の東京国立科学博物館で開催中の「恐竜博2011」に行ってきました。(公式サイトはこちらです)天気が悪けりゃ客足も少なかろうと、その読み自体は正しかったんだけど、天気が悪かったんで外看板は撮影出来なかった…

「どのへんが模型の話なんだ」とツッコまれそうなんで先に書いておきますと、展示物の多くはレプリカです。例えば大抵の「全身骨格」なんかは重量と破損の問題からオリジナルの化石を型取りしてキャスティングした複製品なので、これって十分商売になるんじゃね?そーいやワンフェスで売ってましたな…

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さて今回この展示の特徴は、ある年齢層より上の恐竜ファンだったら必ずや記憶の奥底を揺さぶられるであろうルドルフ・ザリンガーによる絵画「爬虫類の時代(The Age of Reptiles)」を軸に置き、1947年当時と比べた2011年現在の古生物学・恐竜学の進歩発展を知ろうというスタイルを取ってることです。いや―懐かしい、この古めかしいパノラマ絵画って作者も題名も知らなかったけど昔の子供向け恐竜図鑑にはよく引用されていたものですな。決してアパトサウルスでは無いブロントサウルスに、ここから親しんだものですよぅ。実物がイェール大学博物館の展示室を飾っている巨大な壁画だってことは初めて知りましたが。

その姿は現在の最新学説では大きく覆されたものです。しかし現在の最新学説を支える足場となっているのが先人達の研究成果であることもまた確か。一概に古い物として抹消するよりも科学の歩んできた階梯の証として、これからも残り続けてほしいですね。「恐竜探検隊ボーンフリー」とかもね。

「爬虫類の時代」が3億年もの時代の流れを年表的に描いているように、展示内容も三畳紀からはじまる恐竜時代を白亜紀末期の絶滅まで順番を追って陳列されています。がーしかし、ただ漫然と順路に従うだけではなんだか面白くないので、ここは自分の趣味にヒットした展示物を列挙する方針で!行くます!!当ブログは決して教育的方針に基づいて執筆されてるじゃないのだ~。

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早速今回主役のティラノサウルスVSトリケラトプスの全身骨格待ち伏せ対決。双方ともあまりといえばあんまりにも有名な恐竜で、これまでも何度となく展示される機会がありましたが、今回はどちらも新解釈を伴う新しいスタイルの復元です。

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“バッキー”という愛称を持つこのティラノサウルス全身骨格標本は、ご覧の通り深く腰を降ろした着座姿勢で展示されています。そこから起き上がる際の重心異動にこの小さな前肢が一役買っていたであろうというのがCGによる動作解析から導かれた新説。前肢がその大きさの割には骨密度の高い特徴を有していることも、体重を支える役割を果たす裏付けとなっている…と。

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腹肋骨を完備したティラノサウルス標本を見るのは初めての体験で、これも見どころのひとつ。

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そして恥骨の後端も用いて三点で着座していたであろうとの復元になっています。恐竜の視力や臭覚がどれほどの物だったかは判然としませんが、これだけ巨大な生き物が獲物に察知されること無く捕食行動しようと思ったら、伏撃するのも自然な解釈というべきか。

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対戦相手のトリケラトプス。多くの研究者が盛んに新説を発表し毎年のように新しい想像図が発表されるティラノサウルスに比べれば、その姿は昔から変わらないようにに思えるかもしれません。例えば角竜類に羽毛を生やしたような想像図はまだ無い筈です。それでも今回この展示標本にはトリケラトプスの生態における実に画期的な新発見が反映されています。

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こちらもまた前肢部分が、その新発見部分です。従来から全身骨格と足跡印象の化石は発見されていたトリケラトプス。しかし従来までの解釈では脚部の構造と足跡の向きが一致せず、トリケラトプスが直立していたのかはい歩きしていたのか、どちらの説も骨格と足跡に矛盾が生じて意見の分かれる所でした。しかし、肢の甲の部分を横に向けて直立姿勢を取らせればその矛盾は解消されると言う新しい説が提唱されています。

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図録より当該個所の抜粋。「はい歩き」型では化石のようには足跡を残せず、「直立」型ではそもそも関節が脱臼している。それを解消する「小さく前へならえ」型がどこから生まれて来たかというと……実は、答えはずっと前から目の前にありました。その辺りの詳しい事情は図録に記されてるのですが、まさに古生物学の醍醐味と言った内容で実に読み応えがありました。

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こちらは頭骨のみの標本。成長に併せて大型化していく角とフリルの様子も詳しく解説されています。研究者によってはフリルの大きな別種の角竜トロサウルスを「トリケラトプスの熟年状態ではないか」とするひとも居るとのことで、この先何か新学説が提唱されるかも知れませんね。いずれにしろ成長に併せて大型化するということは、未成熟の段階では小さいということである。

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トリケラトプス頭骨(幼体)

やべぇなんだか ょぅι゛ょ に見えて骨でも (;´Д`)ハァハァ 出来そうだ…ロリケラトプスって命名するのはどうかな!ダメかな!!

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しかしティラノサウルス頭骨(幼体)には特に何も感じることは無いです( ・ω・)ノ

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ティラノサウルスが何処から進化して来たのか、ティラノサウルス類には他にどんな種類の恐竜がいたのか、こちらは日本では初公開となる新種ラプトレックスの骨格標本です。(この画像は2枚の写真を繋げているので若干ズレがあります)いわば小さなティラノサウルスで、この状態で成熟した姿体であると。

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頭骨の形状もティラノサウルス幼体のそれとは異なり、ラプトレックスは決して「若いティラノサウルス」ではないとされます。けれどもやっぱり疑問は残ります。以前同じように新種だとされていた「ナノティラヌス」が現在では無効とされている例を見ても、簡単にセンセーショナルな方向に飛び付かない方がいいんだろうな。

ちなみにこのラプトレックスの化石、中国で盗掘された物がアメリカでオークションに出品されたとゆー、発掘地未詳の胡散臭い物件だったりするのであんまり過大評価しない方が良いみたいで(汗)

中国自体は近年盛んに発掘活動が行われており、ここ十年近くの重大な新発見はその多くが中国大陸の化石層から発掘されています。

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展示されていた一連の羽毛恐竜をまとめて。どれも日本初公開でそれぞれ大きな意味を持つものですが、とりわけジュラ紀に生息されていたとされる「アンキオルニス」の意義は大きいと思われます。単純に「恐竜が絶滅して一部が鳥類として残った」だけでは無いにしても、本当に鳥類の発生がジュラ紀にまでさかのぼれるものならば翼竜と鳥類との共存期間が極めて長期に渡るものに…なるのかな??

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現在では鳥の始祖としての地位を完全に失ってしまった始祖鳥(アーケオプテリクス)ですが、今年は命名から150年を迎えるとのことでそれを記念する意味からも始祖鳥化石が多数展示されていました。いやー、なにかこう、違うのよね始祖鳥って。ミクロラプトルとか孔子鳥には感じられないある種の…禍々しさ?がありまして。一堂に会すとまるで宗教画のイコンみたいなんだよな。始祖鳥好きとしてはたまらないですよコレハ。

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最近の研究ではますます鳥類的な特徴が否定され、ただの「ヨーロッパ育ちのハネ生えた恐竜」としての地位に甘んじている始祖鳥。しかしながら、

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「始祖鳥の始祖」たるロンドン標本、ベルリン標本2体の格好良さは少しも揺るがないのです。最初の二人が最もステキである、プリキュアのようなものだな!!

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ジュラ紀の代表的な植物食強竜類、剣竜のヘスペロサウルス。有名なステゴサウルスとは非常に近似しているけれど、いちおう別種の恐竜です。特徴となるプレートや尾部先端のスパイクについて化石断面などから詳しい解説がされていました

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ちなみにこちらが常設展に置かれているステゴサウルス。ヘスペロサウルスと比べて背中のプレート形状・サイズなどに違いがあります。

剣竜の復元想像図も長年変化がないものだなーとか漠然と思ってましたけれど、今回改めて「爬虫類の時代」を見ればそもそもプレートの枚数が半分近く減ってるんですね。互い違いに複列で並んでいるのは不自然だとの指摘は確かに昔からあったんだよな。

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そして今回の「恐竜博2011」では明らかにこれがイチオシ!なジュラ紀の代表的捕食恐竜アロサウルス!です!!実はティラノサウルスよりトリケラトプスより、なによりもこれが見たくて上野まで出向いたのだ~。

この国立科学博物館のアロサウルスは日本で初めて展示された恐竜の全身骨格、それも複製品では無く貴重な実物化石なのです。そもそもの来歴は1960年代に在米日系一世

小川勇吉氏から寄贈された非常に価値のある標本であり、長年にわたって科学博物館の本館内に展示されていました。しかしながら「ジュラシックパーク」に代表される新たな学説が多く発表された近年では旧来の復元想像図の価値は低下し、数年前に行われた博物館の改修工事に伴いアロサウルスは残念ながら倉庫収蔵品となっていたのです。

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しかし今回このたびの「恐竜博2011」には当代の解釈に合わせた再組み立てが成され、頭部を低く構えて尾を長く伸ばした新たな姿のアロサウルスを目にすることが出来るのです。全国のアロサウルスファンは上野に集うべきです。

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立ち位置姿勢が変わっても、アロサウルス類の特徴である3本のカギ爪は相変わらずの力強さ。ティラノサウルス類に対比してより大きく長い腕の用方にも、いずれは新しい光が当たるのかな…と思いつつ、

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「昔はこうだった」も忘れずにありたいものですね。「昔の人類の理解度はここまでだった」ことは現在を越えて「将来の理解度はいずれ拡張される」予感を与えるものですからね。天気が悪いにも関わらず会場内には家族連れが大勢いらっしゃいまして、ひょっとしたらあのうちの誰かが…とか勝手に夢を願うのは、罪じゃないよな。

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ところでこのスタイルの復元って結構場所を食うものです。今回の恐竜博が終わっちゃったらアロサウルスはまた収蔵されちゃうのかなぁ…

夏ももうじき終わりですが、「恐竜博2011」は10月2日まで公開されてます。今回記事に取り上げなかった展示標本や解説パネルなども多く在りますので、ご興味持たれた方は上野の森へとゴーであります!

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今回のお土産品。タカラトミーのガチャ「原色恐竜大図鑑」一回まわしたらティラノサウルス(骨格座りポーズ)でアタリを引いた気分だけれど、入り口でもれなく配布されてたバトスピカードは使い道がない。てゆーか骨だぞこれ、ただの(w;

 

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