アンパーサンドパブリッシング「シャーマン デザインと開発 (ソフトカバー)」
「シャーマン道」という名の道がある――
地図を探しても載っているような道ではありません。ある種の人々が何かを究めて辿った後が、気がつけば道になっている。「車田正美 男坂」で画像検索すればトップに上がってくる光景、あれこそが「シャーマン道」とそこを行く人の姿なのです。本書はその「シャーマン道」を究めんとする方々には最適な研究資料となる書籍ではありますが、ご使用にあたってはご自身の病理症状をよく確認した上で、用法・用量を守ってお読みください。
ページ総数386ページ。900枚以上の写真と130枚以上の図面でM4シャーマン中戦車の各形式・製造工場ごとの細かな差異を悉く解説した内容です。この分野では以前から通称を「ハニカット本」と呼ばれる稀覯本、R.P.ハニカットによる“SHERMAN A History of the American Medium Tank”が究極にして至高の一冊と崇め奉られ、日本の求道者のなかにも旧くからこれを所持し通読されている方も多いことでしょう。
「ハニカット本を持っていれば必要のないものなのか?」「ハニカット本を記述を覆すような記載は存在するのか?」本書に対して寄せられる関心の多くはそのような観点からのものと思われますが、残念ながら当記事の執筆者たるこの身は未だハニカット本を閲覧する機会に恵まれず、自らの浅薄な知識を恥じ適切な比較が出来ないことをお詫びする所存であります。
かつてミスカトニック大学付属図書館を訪問した際にはあろうことか守衛に犬をけしかけられるというああいや、この話はやめよう。
普段このブログで洋書を紹介するときには、それほど英語の読解力を要求しない、読みやすい物を紹介するように努めています。しかし本書に関してはある程度の英語の読解能力(それは単に英語が読めるだけでなく、集中力を持続できるかどうかが大事です)が必須となるでしょう。万が一読んだ人間の手に余るようなことがあれば、ここはもう書評記事をギャグにするしかないのだ。
えっ
某模型通販サイトでは「何かに役立つと言うか何にでも役立つと言うか、そもそも何の役にも立たないとも言える」 などと称されておりますが、そんなことはありません。例えば、次の2枚の画像をご覧ください。
M4A3シャーマン中戦車のエンジンデッキ部分、上はフィッシャー社が初期に製造した個体、下はクライスラー社による後期型のもの。ほらこんなに違うでしょう?というぐらい役立ちます。え、なんの役に立つのかってそれは
それは…
…ZZZ
おっと、もうこんな時間か。はよ進めねば。
車体内外の細かなディティールの様相はシャーマンの模型製作に於いても いらん知識 格好の資料となってくれるでしょう。ともすればなんでもかんでもドイツ絶対優位主義が蔓延る考証派の戦車モデラー層のなかに在って、それに立ち向かうシャーマン道求道者の方々には格好の武器となり得ます。
「星描いときゃとりあえずシャーマンだ」などと言ってくる人間を本書で殴ればd4の、ハードカバー版なら更にダメージ・ボーナスが与えられます(戦闘ルールの詳細については各自キーパーと話し合って下さい)
そうね、言い忘れていましたが本書には全く同一内容のハードカバー版が存在します。どちらを選ぶかはシャーマン求道者諸氏のバトルスタイルにもよりますが、資料で倹約した分の予算を模型あるいは別の資料に流用するのもよいでしょうし、敢えて一冊の資料購入に重点的に予算を投入するのも良いかと思われます。後者は主に見栄の問題と、積み重なる資料とキットの山を押し止めるには敢えて購入点数を減らす勇気も必要だと先人は告げるからです。
でもね、どうなんでしょうね。もしもある日ある時自分とまったく同じ知識量、理解力を持ち資料冊数や製作技術さえ拮抗するようなシャーマン道人のふたりが出会ったとして、この「シャーマン デザインと開発」を一方がソフトカバー、もう片方がハードカバーで所持しているような状況が勃発したら……
あなたなら、どちらの側で在りたいと思いますか? つまりはそういうことなのです。
実戦写真もこれまで類書で見たことが無いような(いや少なくとも自分は初見な)ものが数多く収録されています。自走砲や回収車両などのバリエーションこそ掲載がありませんが、このレベルで派生車両まで扱われたら副作用で色々なものが破綻しかねません。ページ総数とかお値段とか、購入者のご家庭とかです。
熟読していくうちにだんだんとプラモ作りを忌避する感情が湧きあがってくることも否定できません。「見なきゃよかった」という心理でこー、たとえばご主人がプラモ作り過ぎてちっとも家庭を顧みませんと発言小町やYahoo知恵袋的な悩みをお持ちの主婦の方々には「資料で溺れさせろ、餌食にするのだ」とアドバイスしておきます。
メーカー各社の製造刻印も勿論ぬかりなく掲載されています。これら禁断の知識を良く身に着けることが出来れば、各所の展示会で巨大なルーペを片手に「このシャーマンがこの装備でこの時期のディオラマに使用されているのはこのようにあり得ることではない」と鼻高々に開陳することも自由自在でしょう。やったね妙ちゃん、友達が減るよ!
作る側の立場からすれば、もしも本書の記述を実際に反映させた模型作りを行った場合には、可能な限り本書の該当ページを作品と共に掲示して、自分が何を参考にしどう反映させたのかをわかり易くアピールするべきでしょう。さもないと誰にも気づいてもらえない危険性が、相当高いパーセンテージで予想されます。
生産工場ごとの各形式・製造時期と総数をまとめた表は大変役立つ物です。これがあればどんなブラック企業の圧迫面接でも落ち着け、『クライスラー国防工廠が1943年に製造した75ミリ砲を乾式弾薬庫で装備するM4A6シャーマンのシャーシーナンバー』を数えて落ち着くんだ……。
本書で頻出する略語については別紙に一覧がまとめられ、「しおり」になっててちょう便利です、裏面は車両番号と製造メーカー・形式の逆引きインデックスがまとめられていてこれを持っていればどんな小テストにも勝つる。
めくるめく快楽と愉悦の世界へとあなたを誘う、むしろシャーマン道人でもなんでもない方々こそこの本を手に取り、さあ取り返しのつかない世界へとゴーです!理想的なシャーマン像でみっこみこにしてやんよ~(SAN値ゼロ的発言)
ところで、本書とはちっとも関係ありませんがぼくがかんがえる「理想的なシャーマン像」ってだいたいこんなかんじです。
モリナガ先生ありがとうございます、勇気がわいてきます。