イカロス出版「ミリタリーミニチュア ワークショップ 」

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9人のモデラーによる10のジオラマ作品を通じてタミヤミリタリーミニチュアシリーズの魅力と楽しみ方を提示する作品集です。

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本書に掲載されている作品の特徴としては派手なディティールアップや他社パーツの使用などはなるべく控え目に押さえて、製品自体の資質を際立たせる様な基本工作で昇華させているものが多いと言えましょう。ここ十数年で技術や技法もずいぶん色んなものが紹介されましたが、特別な素材や変わった手順を踏まなくても、良い仕事はこれ全て単純な作業の堅実な積み重ねであります。

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平野義高氏によるタイガーIとビットマン以下クルーの情景は車両もフィギュアもキットのまま丁寧に組み丁寧に塗る、それだけで実に見事な仕上がりとなります。ジオラマを製作する為のハードルは決して高いものではないと知らしめる、そんな一例。

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かなりマイナーな車両でも製品化される昨今の戦車模型事情でありますが、それでも未発売の物は自分で作る。プラ板工作による車両の改造もあまり雑誌では見かけなくなってしまいましたが、図面を引くこと、切り出しや面出しひとつとってもマスターしておけばいくらでも応用の効く基本的な技術です。本書とは直接関連しないんですけど、タミヤニュースの「これだけは作ろう」とか「ちょっとだけョの改造」って昔からこの手の啓蒙をずっとやってて偉大だ…

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現在のキットで古い製品のボックスアートを再現する企画は歴史あるタミヤミリタリーモデルならではのことで、モデルグラフィックスの2012年12月号とセットで読めば感慨ひとしおかも知れません。

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雑誌と違って新製品情報を追わなくてよいのは書籍の利点で、現在ではなかなか誌面で見られないM3ハーフトラックの作例にある、ポリキャタピラの不自然な浮きあがりを無くす方法は古いキットを今に活かす手段として有益な「情報」です。またこちらは絶版ですが8トンハーフトラックの旧版とそのフィギュアを使って「一糸乱れぬ規律の高いドイツ兵」を製作するのは、ネタとしてはよく言われるけど実際目にするのは珍しい。

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車両とフィギュア、そしてグランドワーク。ジオラマを構成するこの3つの要素を様々に作り上げ、演出するモデラー諸氏の腕前を存分に堪能出来る内容です。ベトナムのジャングルからロシアの泥濘、アフリカの砂漠まで、1/48スケールのサイズを利用したものもふくめて多彩な表現を楽しむことができます。

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また大西將美氏へのインタビューや現存する実際の装備品の写真、カラー印刷による1/35スケールの道路標識など、ただ読んでいるだけでなく実際に手を動かして作成するためのヒントや示/唆となる記事も掲載されています。巻末にはベースの自作方法や各所で開催されているのコンぺディションも紹介され、一個のプラモデルから広がるいろんな可能性を提示する一冊でもあります。

全体を通じて創刊当初のアーマーモデリングみたいな雰囲気が漂う、そんな空気が楽しい本です。

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