カプリコンパブリッシング「A30 チャレンジャー重巡航戦車」
チェコ共和国陸軍技術博物館に現存する実車の取材に基づく“ARMY WHEELS IN DETAIL”シリーズの一冊。イギリス軍初の17ポンド砲搭載戦車、重巡航戦車チャレンジャーを題材に採っています。
ところでこの本、原題は表紙にもあるように「CHALLENGER MK.VIII」なんだけど、それって誤解だと思います。巡航戦車MK.VIII車体がベースになってはいるけれど、チャレンジャー戦車としての形式分類はMK.Iじゃないのか?
「マイナーな方の」「あまり活躍がない」「見た目がクレヨンしんちゃんに出てくるボーちゃんみたいな」などとおよそ褒め言葉とは言えない形容がついてまわる初代チャレンジャーではありますが、良い所だってちゃんとあります。例えば、
例えば――
まあ、それはともかく。
本書は生産台数200両に満たないチャレンジャーの貴重な資料集であり、実車のクローズアップフォトだけでなくテクニカル・マニュアルからの抜粋図面も掲載されています。
セントー/クロムウェル車体を拡大延長する形で開発されたチャレンジャー戦車上面、砲塔後部に二つ存在するペリスコープに注意。大型で重い17ポンド砲弾を急速に装填するためにチャレンジャー戦車は2名の装填手を必要としました。当初は重量過多が不安視され原型に比べて装甲厚を減じる処置がとられたのですが、実際のところその心配は杞憂で運用開始後に増加装甲を装着するという二度手間な回収作業を経ていたり。そしてイギリス人は相変わらず発煙弾投射機を「ボムスロウワー」と呼ぶ…
何ゆえそのような車両がチェコに現存しあまつさえ資料集まで発行されているのかと言えば、第二次世界大戦中に編制されたチェコスロヴァキア独立戦車旅団が装備していた車両なのだそうで、考えてみればチャレンジャーがいちどきにこれだけ並んでる写真もあまり見ないな。戦後母国へ帰国し、プラハで凱旋行進を行うチャレンジャーの写真も多数掲載されています。なんて華々しい光景だろう。部隊史にについては同じくカプリコンから発売されている「チェコスロバキア独立機甲旅団史」に詳しいかと思いますが、もともとファイアフライを装備していた同旅団、どうやらドイツ降伏に前後する時期にチャレンジャーへの改編を受けたようですね。英国機甲旅団か自由ポーランド軍の中古車両が廻されたんでしょうけど、そりゃチェコスロヴァキアも戦後東側陣営に行っちゃうわけですねえと納得しま…
ふと思った。戦後はチェコスロヴァキアが共産主義体制に移行するのを見越した上でチャレンジャーを押し付けたのではあるまいかイギリス人は。いや、まさかそんな…
チェコスロヴァキア独立機甲旅団所属車両。塗装はイギリス軍に準じるので、果てしなく地味。
ちょっと前に出たSKIPのキットをディティールアップしたり、普通とは違うマーキングで仕上げるには良い資料となるでしょう。や、素組で完成させるだけでも英雄視される製品をはてディティールアップする人がどんだけいるのかとかそもそも普通ってナニとかいろいろあるでしょうけれど。
なんだかんだ言って初代チャレンジャーにだって良いところはある。マイナーな方だしあまり活躍がないし見た目はクレヨンしんちゃんに出てくるボーちゃんみたいなヌーボーさだけれど、
そこが大事なんです!
褒め言葉なのです。
なお今回の執筆にあたってはアーマーモデリング誌のバックナンバーから「ブラボー!ブリティッシュ・タンクス」当該記事を参考にしました。日本語でまとまったイギリス軍戦車の本ってないものですかね~?