トイズプレス「模型歳時記」

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季刊「テールズ・オブ・ジョーカー」に掲載されていた小田雅弘氏によるエッセイの単行本です。


ものの本によると「エッセイの商品性は、著者の有名性に支えられている」とあります。それが全てではないにしろ「何を言ったかだけでなく、誰が言ったか」が結構な重要性を持っている、と。小田雅弘という方はガンプラブームを牽引したモデラー集団「ストリームベース」の一員として数多くの雑誌作例を発表しメーカーサイドで製品の企画開発にも携わった方です。ある種の模型趣味、ある世代にとってはブランドネームと言っても過言ではないでしょう。しかしながら、ガンプラやガレージキットの話題というのはあくまでご本人にとっては一側面であり、実を言うとこの本そっち関係の話はあまり載っていません。模型から始まって趣味全般に広がる様々な物事や物思いを書きつづった文字通りの「歳時記」です。

ガンプラよりはむしろ以前ホビージャパン誌でやっていた国内外の絶版キット紹介コラムや、80年代末~90年代初期のニュータイプに掲載されていた模型記事に近いスタンスかも知れません。前者はともかく後者はいろいろ覚えていたので入り込みやすかったけれど、ザクのハの字加工とか06Rの話を期待して読むと面食らうかも知れませんねこの本。ただ一点

後年、「似てないザクやアッガイなら似させるまで!」と、手を動かさせたのは、このアオシマ体験によって充分鍛えられていたからこそなのであった。

昔日の小田雅弘少年が「お世辞にも出来がよろしくなかった」アオシマの飛行機模型をカッコ良く作り倒していなければ「How to build Gundam」は無かった!アオシマ偉いぞ!!という、日本模型史の隠された一面が明らかにはされますな。そんな感じで模型に関する話はタイトル通りに毎回出てきますが「模型その物」も実はそんなに出てこない。「TOJ」連載当時は図版や写真もあったようですが単行本にはすべて未収録なので、回によっては文章内容の意図を掴むのに苦労することもあります。

読み進めるのにややハードルを感じることもあるのは「趣味」という極めて個人的な行為を極めて個人的に綴った文章だからなのかも知れません。同じ趣味を持っていれば共感は容易いと思いがちではありますが「麻布の御屋敷屋敷に住んでいるプロのサックスプレーヤー」が模型趣味の師匠だなんてかなり特殊な環境には、同時代・同世代の人でもそう簡単に共感は出来ないんじゃあるまいか。なにしろ「ある夜に突然モノグラムのフォード・トライモーターが作りたくなったけれど、2個のストックは100km先の倉庫に保管してあるから高速代を考えたらもうひとつ買った方が安い」みたいなことが平然と書かれているのでこれに共感できるのはかなりの冥府魔道を行く人だと思われます……ページをめくる最中になんだか他人の山登りに付き合わされているような気分になったのは確かだ(笑)

それを越えて丘の向こう側に見える景色は、「趣味」に尽力することの気持ちよさや「嗜好」に生きることの楽しみを十分満喫できるものでしょう。プラモデルだけではなくシューズのコレクションや季節の食べ物など

様々に広がる話題から、なるほど小田雅弘という人はいろんなものが好きで、好きなものには真剣に取り組む人なのだなあと、そういうことを読み取れます。ブレの無さはこの本の特徴と言えるかも知れません。雑誌掲載期間が1994年から2007年までと長く、またその間の模型業界ってかなりダイナミックに変貌したものですが、あまり周辺の諸事情に流されることなく記事は連なっていきます。

明代の儒者にして陽明学の租、王陽名に曰く「その好むるところを見て 以てその人を知るべし」

「小田雅弘のエッセイ」に書かれているのは「小田雅弘という人」である。そんな内容です。巻末には海洋堂の宮脇専務を初めとしてフリー編集者の松井和夫氏、プロモデラーの小林和史氏による寄稿が掲載されています。お三方の立場の違いを表すようにそれぞれの目に映る「小田雅弘像」はどれも違っているのですが、ひとりの個人の中ではブレずに一致している。ひとって概ねそのようなものではありますけれども。

自分にとっての小田雅弘像は「プラモ狂四郎に出てきたひと」なんだけど、ことあのマンガのキャラクターに於いては「アオイ模型の三戸広右衛門会長」が、小田雅弘氏個人の心情を代弁していたのかも知れません。このエッセイ読んでるとそんなことも思わされます。

しかしガンプラブーム真っ盛りの頃に「模型業界を支配するのは問屋だ」って描いてたんだからプラモ狂四郎は怖いマンガですね(全然関係ない話を振ってオチにするのは単にワタシの趣味です)

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