ハッピーミディアムプレス「21st. センチュリーモデラー Vol.1」
サイファイ&ファンタジーモデラーシリーズの別冊、「サンダーバード」を始めとする一連のアンダーソンピクチャーズ製特撮TVシリーズの模型本ではありますが、今回は少々毛色の変わった内容です。
例えば表紙を飾っているこの「ヘリジェット」、キャプテンスカーレットの第何話かに出てきたと言われれば通りそうな、いかにも20世紀のイギリス特撮な形をしていますが、
ミキシングビルドの原材料になったのはオスプレイやユーロコプターのヘリなど現在の――21世紀の現実の――航空機プラモデルです。普通このジャンルのモデリングはまず実際の撮影に使用されたプロップありきでそれの再現、あるいはプロップを基盤に見据えて「リアルな」方向性でのウェザリングやディティールアップ、電飾などのプラスアルファを加えていったりするものですが、
この作例は映像作品とは直接の関連が無い、モデラーによるオリジナルのスクラッチ作品なのです。「もし21世紀になってもアンダーソンピクチャーズが装演で特撮を撮影していたら…」と考えるようなスタイルでしょうか。ちょっと説明し辛い概念ですが俺のガンダムすなわち俺ガンならぬ「俺サンダーバード」風?
(90度首を傾けてご覧ください)
こちらの作品も一見するとイマドキのスタイルにアレンジされたサンダーバード3号のように思えましょうが、
サイロの壁面以外はペガサスモデルのオリジナルレトロSF風ロケット「マーキュリー9」をほぼそのまま、単にオレンジ色に塗装したものです。垂直式ロケットがオレンジ色してれば大抵の人はTB3のように感じることでしょう。「塗っただけでサンダーバードかよ!」とさまぁ~ず三村風にモヤモヤしたお気持ちを抱かれる前に申し添えておきますと…
ちゃんとアラン・トレーシーくんがいます。
模型の国ではよくあるこのようなかたちのアレンジは、一体特撮王国ではどう受け止められるのでしょうかね?CGと人間の役者がやってた近年の劇場版「サンダーバード」はあんまりいい評判を聞かなかったもので(バンダイのプラモ始め関連製品はいずれ希少価値が生まれるかも知れませんが)
むしろあの映画があったからこそ「本当はこういうのが見たかった」欲求がカウンターパートとして生まれてくるのかも知れません。モデリングには夢、ロマンも必要であり…
しかし夢とロマンでやりすぎちゃうと却ってドン引かれるのもよくある話で、その辺の案配は大事でしょう。「ファイアーボールXL5:ネクストジェネレーション」と題されたこちらの作品などはネクスト過ぎにも程がある(笑)メカじゃない、人体の方ですよ?
アンダーソン作品をエッセンスとして取り入れたグラビア的なものと考えるべきなのかな?最近の欧米では「スチームパンク」のブームがSFを飛び出してファッションの一部、服飾デザインにまで広がってるそうなので、例えば60~70年代あたりのSFが持っていた独特のスタイル、未来感を現代に再発見する行為もアリかとは思いますが。
プロップ重視派の作例もちゃんとありますのでそちら方面の方もご安心ください。スティングレイのエージェントX20(エックスツーゼロ)専用小型潜水艦は(しかし「鰹節型潜水艦」という日本名はなんとかならんか)
レベル・ヒストリーメーカーズのベルX-5を切り刻んで作られています!なんて、なんて漢(ヲトコ)らしいモデリング!!これ見てモッタイネーヨなんて思う人はまだまだ紅茶が飲み足りないです。
巻末にはスペース1999やキャプテンスカーレットなどの作品を中心に、実際の撮影に用いられたプロップが取材されています。さすがに今の時代にこれら大がかりなミニチュアを使用した特撮映像を(ビジネスとして)制作するのは難しいことでしょう、いずれはロストテクノロジーと化すのかもしれません。
しかしたとえ時を経て古びても、これらオリジナルモデルに宿る魅力が褪せることはありません。20世紀の時代に一体自分が何に魅せられたのか、そこをちゃんと押さえることは重要で、
その上で21世紀の現代には一体何を見せたいのか。作り手と受け手の関係がうまく働いていれば、昔の作品を現代的にアレンジすることも決してタブーではないでしょう。そういうジャンルになってくれると面白いですね。