パンダホビー「1/35 ソビエト 試作重戦車 オブイェークト 279」

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“オビーエクト279の試作車は1957年に完成した。それは、一目見たら忘れられない外観であった。”

著名な軍事研究家のスティーヴ・ザロガ氏をしてこのように言わしめた旧ソ連の試作重戦車です。1/35スケールで同一車両三社競作というかつてのカール自走砲を思わせる事態の中で一番手に発売されたパンダホビー版。



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転輪関係Aパーツは2枚入り。

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砲塔関連はほぼBパーツ内に納まる配置です。

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Cパーツは大判のランナー1枚が二分割…というか切断はされずに手曲げされて入ってました。大胆なパッケージングにちょっとビックリ(^_^;

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分割固定式のキャタピラはTパーツで都合3枚付属します。

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車体上下はピンゲート成形されています。ここだけ見るととても戦車のプラモデルとは思えません(笑)

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エッチングは一部折曲げ加工が必要とされるパーツについてはあらかじめ予備が含まれています。デカールこそ在りませんがワイヤーロープ用の銅線が付属。総じて見るに、ひとつのプラモデルとしてはごく普通の製品構成と言えるでしょう。しかしあたまに「パンダホビーの」と付けくわえると、びっくりするほど直球でストレートな素直クールって感じになるのはまあいろいろあったからさ……

それでもやっぱり各所にいろいろポカやミスがあってドジっ子属性が抜けきれてません。人間もプラモデルもなかなか素直にはなれないものです。

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パンダホビーの戦車キットでは初となるかな鋳造表現。梨地のテクスチャはなかなかに綺麗なものです。

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本車いちばんの特徴となるキャタピラはセンターガイド2枚の中を転輪が通る、他のソ連戦車にはない独特の形状です。

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転輪そのものはプレスの薄い構造で、それぞれ単列に配置されています。足回り全体が重量のかさむものなのでひとつひとつの構成要素はどれも軽量化が図られているような印象を受けます。

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長大な砲身はシンプルなモナカ割り。ここに見られるように戦車プラモデルの設計としては極めて普通のものですが、普通に設計したら組み立て難くなりそうな本車に特有の箇所が、そのまま普通に設計されているような印象もまま有りますね。

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これは個体差があるかもしれませんが車体上下面が若干歪んでいるようだったので、取説手順と違えてあらかじめがっちり接着してしまいました。尚この際に側面の合わせ目もツライチにしておくべきだったと、それは後から気がついた……

またこのキットの問題点としては製作工程のパーツ表記に誤記や表記漏れが頻繁に発生する点が挙げられます。どうも推敲ちゃんとやってない様子で、まるでどこぞのブログを見ている気分。胃が痛いです(笑…えない

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一目見たら忘れられない外観を形作る足回り関係から組み立て始めます。この左右に転輪が配されるパーツはなんと呼ばれるべきなんだろう?田んぼの「畝」みたいな印象ってそれで通じるかなあ。それとも「山」か。

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スイングアームの取り付けは肝心の図版がなんか騙し絵みたいなデッサンになっていたりアームの取り付け指示が左右逆になっていたりとアレ気ですが、ガイド自体はしっかりしているのでちゃんと角度は決まります。

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スイングアームはシリンダー的な形状のものが2本並列しているやはり独特な形状です。本車のサスは油気圧サスペンションで車高調整が可能ですから、なにかダンパー的な機能がスイングアームに内蔵されているのかもしれません。油気圧サスペンションの概念と構造とについてはイカロス出版刊「ドイツ連邦戦車開発小史」Kpz70の章に詳しいのですが、西側より10年以上先んじて油気圧サスペンションを戦車に取り入れてたんだからソ連軍すごいぞ。

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起動輪部分のアップはなんだか新手の拷問器具みたい。なお起動輪の合わせは工程のいちばん最初に来るのですが、その際パーツのガイドを信じるとギアが左右で合わなくなります。A15/16の凸部を切り飛ばしてキャタピラパーツをガイドに使ってちゃんと左右を合わせて作ればよかったなあ←後悔

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誘導輪の軸受となるA6/7はあろうことかランナーにNo.タグが付いてないぞ。そんなことで一々驚かずに取説のパーツ配置図と見比べて粛々と進めまショー。上部転輪A8は軸が太くてちっともはまりませんがそんなもんは満面の笑みを浮かべて穴を広げりゃエエことです。

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組みあがった足回り部分です。起動輪基部も含めて一体化されていればこの時点でキャタピラ巻いて後々の作業が楽になるのですがこの通り独立した構造である。本車を設計したトロヤノフ技師を呪いつつ、続きを進めていきます……

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車体底面左右には計6か所の小さなフック状のパーツが付きます。ここはプラパーツのA18かエッチングのPE7を選択しますが完成したらさっぱり見えないとこだしPE7は予備も無いしで遠慮なくプラパーツを選択する。パンダホビーキットのエッチングパーツ配置に疑問が湧くのはなにも今に始まったことではないか。

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キャタピラは取説の指示枚数の通りでいちおう足りますがタイト過ぎるかもしれません。実車には自然な弛みがあるので枚数増やした方がよいでしょうね(パーツの余裕はあります)

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キャタピラ4列あるうちの内側の2列は、一見すると取り付けるのが大変そうに思えて実際にやってみると本当に大変なのでした。なんかこー、もちっと工夫とかアイデアとか、それはモデラー個人で考えるものなのかも知れませんが……

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核爆発に耐えるという観点では4列キャタピラと同じくらいに重要な意味を持つベンチレーター。本車のアイデンティティともいえるこの部分はエッチングでグリルの金網を再現してます。装甲キャップのA12パーツは取り付けピンが太すぎますが、ズバッと切り落としても軸部分とエッチングにクリアランスがあるので大丈夫だ問題ない。

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でもこのベンチレーター部分、本当にエッチングが必要だったのでしょうか? 謎は深まるばかりである。

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取説の6ページ、工程6は異様に誤植が多いのであらためて注意喚起しておきます。パーツを良く見ればわかることなのですけどね。

・OVMのうち車体左側に取り付けるハンマーは ×C14 → ○C15

・砲塔リング防護バンパーC3とC25は取り付け指示が左右で逆

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・車体後部に2個取り付ける主砲トラベリングロック基部は ×C2 → ○A22

またこれは取説全般に言えることなのですが、ごく小さなパーツの取り付け指示でも車体全体が図版化されているので、結果として指示されるパーツが小さく描かれ過ぎている問題があります。おかげでパーツの形状や取り付け位置・方向が非常に把握し辛い状態となっており、随時クローズアップすることは大事なんだなと思うところです。この辺は設計よりもデザインのセンスに左右されるものなので、プラモデル設計者の道を志す方は大日本絵画の「プラモインストブック」を枕元に置いておくべき。

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取説7ページの工程7ではOVM用のブランケットをエッチングパーツ2つと「何か」を使って2セット組み立てるよう指示があるんですけれど、その何かがわからないOTL どうやら組み立て終了後にちょうど2つ余ったA21パーツではないか……と推察されるのですが、なんか全然形状違うよ!? A21っておよそ蝶ネジには見えない部品なんだけどなうううむ。

まーねー、ここだけOVMブランケットがエッチングなのも変だしどうせなにも工具は乗せないところなのだしでこー、

スルっと(・ω・)

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車体後部の燃料タンクも空力を考慮して(!)独特な形状です。車体左右の縁、寿司ネタで言うところの「えんがわ」部分はタンクなのか放射線防護素材が封入されるのかどっちなんだろう? このえんがわ部分もC32と45の指示が左右で入れ替わっていたり合計6個取り付ける小パーツが ×A16 → ○A17 であったりとミスが多いことである。

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ガマゴートよりもよっぽどガマガエルに見える車体です。冷戦崩壊後クビンカ博物館で初めて西側の目に公開された時は相当物議をかもしたもので、「湿地帯用の重戦車ではないか」てな推測もありましたね(なんでもクビンカのガイドがそんな与太を飛ばしていたとの噂もあるのだが)

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至近距離での爆風を受け流すために空力処理された車体と地面を強くホールドするための4本のキャタピラ。すべては「次の戦争」で予測される核攻撃に抗堪するための設計でした。

あー、その、車体後部燃料タンクからは左右に合計4本の配管が伸びるしパーツ化もされているんだけれど、タンクの取り付け位置がまずかったのかパーツ成形が不良だったのか、なんだか全然届かないんでその、

オミっと(・ω・)

自作した方が早そうな気もしますよ? と言うだけ言ってやらないんだからヒドイよね俺……

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主砲は130ミリ戦車砲M65、試作重戦車JS-7の武装を引き継ぐ存在で元をただすと第二次大戦以前の海軍砲からの流れを受けるものです。130ミリ砲はソ連の試作戦車や自走砲にしばしば使用されていますが、正式採用された例を寡聞にして存じません。

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砲塔後部にはソ連戦車伝統の手すりがあります。ひとくちに「手すり」と言っても用途は色々、いかにも乗降し難そうなデザインの本車では乗員の乗り降りに役立ったことは想像に難くないことです。がーしかし、核爆発に耐える構造、・戦争を念頭に置いて設計された戦車でもやっぱりタンクデサントするのが前提だったんだろうか? 果たしてそんな非人道的なことをするでしょうか??

するに決まってんだろう(・ω・) やはり畑から人が生える国はやることが違う(;´Д`)

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砲塔部分に関してはエッチングの使用も取説指示も特に問題はありませんでした。車体部分とのこの差はなんだろうな一体。

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かくして完成ですよヤッホウ。試作車両一両が現存するのみで特に塗装もマークもないんだけれど、なんだか「プラウダ高校」の校章デカールを貼りたいキブンになるほど押し出しの強い戦車であり。

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本車の砲塔リングはソ連戦車の中でもひときわ大きな直系を持つもので、それに比して砲塔内部の容積も広い……とはいえ流石にそこはソ連戦車なので内部を圧迫するとんでもない装甲厚である(こちらのサイトに断面図あります

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本車はT-10重戦車の後継として開発されましたが、コスト高に加えて同時期に強力なライバルがいたため結局採用されることはありませんでした。本車の競争相手を列挙してみると……

・T-10に改良を加えた変わり映えのないオブイェークト206重戦車

・279とほぼ同一の武装ながら常識的な車体構造をもつ保守的なオブイェークト277重戦車

・コンパクトで重装甲、高い機動力を持つ革新的なオブイェークト770重戦車

ミサイル万能主義のニキータ・フルシチョフ共産党第一書記兼首相

なんということでしょう!あの食卓で満足にナイフも使えないガサツな田舎者のハゲ(※)のおかげで、この極めて前衛的な重戦車は不採用に終わってしまったのです! なおソ連軍内部で重戦車の地位を相対的に低下させた中戦車の進歩発達については、話の流れ上割愛することとします。

※河出書房新社刊「スターリン・ジョーク」の記述に基づく。

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世が世ならこの戦車がヨーロッパの地図を真っ赤に書き替えていたのかなあ、それともコイツが活躍するような事態になってたら、世界地図の色は灰色かなあ。そんなことに思いを馳せつつ苦いコーヒーなどを飲んでいると……

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ワイヤーロープを忘れてた/(^o^)\

取説に取り付け指示がなかった……。良く見ると何の指示も無いまま唐突にタグだけ車体に取り付けてあるのよOTL

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そのままでは若干長過ぎるんで10cm長に切りましたら、パーツリストの方には10cmの銅線が入ってる旨書いてあるじゃあーりませんか(#^ω^)ビキビキ 実は10cmでもちょっと長めなんだけど、車体とタグの取り付け角度が決まってるんでそのままでは四面図ほどまっすぐにはならないんだよなーうーん

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ほんであらためて完成体です。T-34と並べるのはあまり適切ではありませんが、概ねのサイズ感はご理解いただけるかと。某セーラー服と重戦車マンガではすげーでっかく描かれてたように記憶してましたけど、どうもアレは「オブイェークト279っぽい形をしたなにか別の巨大戦車」だったようで。

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一見するとSFメカのようにも見えるオブイェークト279ですが、本車を設計するに至った発送は極めて常識的な思想に基づくものです。日本人的な感覚で考えると核戦争は大きな戦争の最後に起こるようなものと捉えがちですが、冷戦当時のソ連軍にとっては例え核爆発のさなかにあっても前進を止めることはなく、むしろ戦争開始の号砲みたいなものだったのだと、そういうことなのでしょう。例えるならばJAYWALKの名曲「何も言えなくて…夏」でいうところの

「私にはスタートだったの あなたにはゴールでも」

のように、東西両陣営に於ける核戦争観の違いを知る上でも面白い存在であります。

さてご存じの通り冒頭にも書いた通り1/35スケールのオブイェークト279は3社がバッティングする事態を呈しています。次に控えるはアミュージングホビーか。このパンダ版に関して言えば3社の中でもっともはやくリリースされた分、各部に詰めの甘さや煮え切らなさが残っているいるような感があるのは確かで、あまり万人向けではないかもしれませんね。

しかしながらパンダホビーのキットとしては飛躍的に進歩した組み立てやすい製品であり、MATVやツングースカにくらべると広く万人に進めたい製品でもある。評価基準っていろいろです。

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