ペコパブリッシング「III号突撃砲 2」
「戦場の三号突撃砲」第二巻です。収録内容の8割は初公開となる写真集。残りの2割も決して見慣れたようなものではなく、余程の詳しい方でもない限り初見となるものが多いでしょう。
なにしろ最初の一枚からして「よく知られた写真だが」と前置きされた試作車両Oシリーズの大変クリアーな一枚です。たしかに既出のものかも知れませんが、クリアーな印刷で大判のフォトはなかなか出版物では見られないもの。第二段と言っても大戦後半のフォトを集めたものではなく、開戦前から末期に至る広い期間、短砲身から長砲身型まで各形式の三突が掲載されています。
内容的には西方戦役とバルバロッサ、初期電撃戦の写真に面白いものが多いように感じられます。理由としては良いフィルムが使われていて美しい画質が保たれていることと撮影現場が比較的落ち着いていること、そして読んでる自分が短砲身好きなことが挙げられるでしょう(最後のはなんだ)
橋をぶち壊すのは初期三突の写真では本当によく見かける光景ですが、キャプションでは後部デッキの荷物や予備キャタピラの積載状況、なにより放熱のために開放されているエンジンハッチなど見るべきポイントが簡潔に指摘されています。情景製作のアイデア本として、また作品に説得力を持たせるための指南書としても大変に重宝する内容であることは、ペコブックの既刊本お読みの方には自明のものです。
戦闘後の撮影では被弾や破損の状況などの、壊れ易い箇所を見て取ることが出来ます。バトルダメージひとつとっても「ただなんとなく」ではなく「意味のある破壊」を心がければ説得力は増すものですね。三号突撃砲はまだ歩兵携行対戦車兵器も発達していなかった時期に中空装甲を備えていたのですから、ある意味では主力戦車よりもずっと先進的な設計だったとこの一枚からもよく理解を得ることができます。
それにしてもよく橋を落としていて、それがまた良く撮影されています。撮影状況としても面白い構図だったのだろうなあ。そして当時の交通インフラは決して装甲戦闘車両の通行を前提としていなかったことの、証と言えるでしょうか。情景には向いたものかと思われますが、しかし考えてみれば三突B型ってあんまり良いキットが無いんだよなうーむ。ドラゴンのは古いですしタミヤのは……ちょっと、ねえ。
もちろん長砲身型にも良いフォトはたくさんあります。独特な迷彩パターンで有名なノルウェー駐留の第14空軍野戦師団所属F8型も車両デポでの珍しいカットや、受領したばかりの新車と思しきピカピカのG型で整列する武装SSの突撃砲大隊など興味深いものがいくつも掲載。
時代が下るにつれて迷彩塗装やシュルツェン形状に現地部隊で独特の処置が施されていくのは後期三突の大きな魅力、オストケッテを履きコーティングをまとったこの車両(1944年秋の撮影)はカモフラージュとしてかなり写実的に樹木を描き込んでいるようです。かつてフランス軍のB1戦車に同種のスキームがあったのは何か皮肉なものを感じる……
今回個人的にイチオシなのはフンメル自走砲と共に演習を行うG型の一連のショットです。部隊名こそつまびらかではありませんが同じ砲兵科所属車両ということで共同訓練といった按配でしょうか、いかにもディオラマ栄えしそうな車両と構図、なによりグランドワークがシンプルで済むのは演習風景の大きなメリットです!
同じく興味深いものとしては武装SS第7義勇山岳師団というからプリンツ・オイゲンですね、その隷下の第7突撃砲大隊所属要員の葬儀の隊列に弔旗を掲げて参加している突撃砲の写真が一般の書籍ではなかなか見られない情報を伝えてくれます。三号戦車M型と同様の防水排気弁付きマフラーを備えた極初期G型の組写真は極めて貴重かと思われますがさすがにこれは、ディオラマ向きではないか。
ともあれ価格に見合った濃厚な内容を約束してくれることは間違いがありません。三突ファンなら是非お手元に揃えて置きたい一冊です。