ホビージャパン「AKライフルの軌跡」

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「追悼 ミハエル・カラシニコフ」と副題にあるように、2013年12月に逝去した銃器設計者ミハエル・カラシニコフ氏の生涯と一連の業績をまとめたものです。

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この先も銃器が進歩と発展を止めることは無いのでしょうが、ひとつの銃器デザインが明確に個人と結び付けられる事例はこの人が最後になるのかもしれません。20世紀を代表する個人携行火器のひとつ、AK47を設計しそこから始まる数多くの銃器体系を導き出した人物として、カラシニコフの名が忘れられることは無いでしょう。その死去は日本の新聞紙上でも報知されAK突撃銃をテーマにした本は一般文芸書として刊行された物もあり、いわゆるマニアでなくとも名前を知る人は多いでしょう。


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このように専門書にあたらなくてもカラシニコフ氏の業績を知ることは可能ではあります。しかしながら日本のマスメディアでは「全世界で数億丁生産されたAK47」とでもいうような一種雑な報道が繰り返されていることも確かであり、AK47とそのバリエーションについて正しく知るためには、本書のように専門の記者による取材、伝聞に頼らず事実に基づいた記事が重要と思われます。

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カラシニコフ当人の評伝というものもよく有りがちなものではありますが、本書に掲載されたそれは短く纏まりながらも銃器そのものに寄せた内容で、ロシア連邦ウドムルド共和国に建設されたカラシニコフ博物館に取材したフォトからは、興味深い展示内容がいくつも掲載されています。

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カラシニコフが初めて設計したといわれるサブマシンガン。フォアグリップのデザインなどはいかにも古めかしいもので、この銃が不採用だったというのも頷けます。戦場で負傷した一戦車長が病室で設計し機関車整備場で製作したといういわば「サクセス・ストーリー」には疑義を挟む本文記述で、ソ連崩壊以降西側のメディアに開陳された自序がどこまで真実だったのか、もしくは真実をどこまで語っていたのか、一般書にはあまりみられない種類の観点が盛り込まれているのは流石といったところでしょうか。

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アームズマガジンや旧Gun誌に掲載された記事を再構成する形での実銃の射撃レポートも読ませるもの。ちょっと面白いことに、半ば伝説的に語られるAK突撃銃の高い能力とは裏腹に、各シューター達によるAK評はむしろ低いものです。動作機構のタフさは評価されながら、決して撃ちやすい銃ではないしよく当たるものでもないと。

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AKに限らず日本の軍事マニア界隈にはソ連製兵器を神格化するような風潮もありますので、ルーマニア製や中国製のコピー銃を使用してのレポートには反論する声もあるかもしれません。ですが問題はおそらくそういうことではなくて、まだ東側兵器が鉄のカーテンの向こう側にあった時代にベトナム戦争の後遺症も受けた何かを刷り込まれた世代があるってことではないのかな。意図的に砂を詰めても正常な射撃が出来る堅牢さはあっても、その後適切にクリーニングを行わなければ当然のように故障や破損を招くものであり、決してメンテナンスフリーではないしまた、

「やたらとガス・オペレーションによる排莢力が強いので、弾き出されたエンプティケースは遠くまで飛んでいく。屋根のあるレンジの場合、屋根に当たり毎度、“ガッツン”と大きな音を立てる。これが気に障るシューターも多い」

との記述もあります。これは非常に示唆に富むもので

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ラスベガスのシューティングレンジで「趣味」としてAKを撃つならそれは確かにその通り、けれども現在のシリアをはじめとして世界各地の紛争地帯で「仕事」としてAKを使っている人々ならば、異なる見解を示すかも知れません。どちらが正しいとかそういうわけではなくて、ひとつの道具が異なる状況で使用されているのですから見解が異なるのも当然なのです。AKは軍用銃として設計されたものだから実際の戦争で使用する人の意見が正しいのだとそういう見解もあるでしょうが、得てして不正規な使用が多いからなぁ……なんてことも思ったりします。

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アメリカでは一連のAKシリーズが“AK Pattern rifles”として市場に流通し、毎年開催されるショットショーでも関連企業がいくつもブースを出展しています。面白い(?)ことに現在のアメリカにおける銃規制法では外国製の火器は完全品での輸入が許可されず、国内での再組み立て・ノックダウン生産においても輸入部品の割合は一定数までに限られています。結果どうなったかというと、世界で最も多くAKライフルのバリエーションを開発した国はアメリカである、と。勿論量的な意味での話ではなく種類の話なのですが、本書の「ソビエト以外で作られたAKライフル」リストではアメリカ製のものはバリエーションの全容を把握できないので割愛される事態に。

資本主義社会と自由主義市場って怖いですね(; ̄Д ̄)

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ロシア連邦の軍縮化傾向や全世界のコピー商品がおよそパテントなど無視して作られまくった結果を受けて、AKライフルを製造していたイズマッシュ(イジェフスク機械製作工場)が倒産したニュースを記憶している方も多いかと思われます。カラシニコフ死去とともに一般紙の社会面にも載るようなニュースでした。しかし現在はロシア国内の複数の銃器メーカーと経営統合されコンサーン・カラシニコフという名称で再出発したって話は本書で初めて知りました。こういうことはあんまり報道してくれませんね新聞やテレビはね……

一般的なマスコミよりも一歩踏み込んだ情報として、様々な知見を得られる内容です。例えば「AK47に使用される7.62mm×39弾の弾頭直径は7.62mmではない」とか。

知らなかった そんなの…(例の画像)

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