ホビージャパン「T-90/T-90A 主力戦車写真集 日本語版 」

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現用ロシア軍主力戦闘戦車の資料写真集です。「MENG PHOTO ALUBUM VOL.1」とあるようにMENGモデルのT-90Aキット開発に携わった Alexey Khlopotov 氏によって記録・収集された資料を一冊の書籍としてまとめたもの。いわば「オリジナル」にあたる物はDVD写真集として一部日本国内でも流通していましたが、そこからフォトを厳選し日本の読者向けにキャプション・解説文を加えた内容です


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これまでホビージャパンは「ミリタリーモデリングマニュアル」のシリーズなど戦車模型の本を数多く刊行してきましたが、実車の資料集が出るのは1987年の「GERMAN COMBAT TANKS IN W.W.II 」以来のことかな? はじめて刊行のアナウンスを聞いた時には随分と驚いたものですが、日本語で読めるものとしてここまで詳細なロシア現用戦車本が存在し得ることが、そもそもの驚きではあります。

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内容はタイトル通りに大別して二部の構成となり、T-90とT-90Aの二種の車両を取り上げています。興味が無い向きには全く同じに見えるかもしれないふたつの戦車の違いを、鮮明なクローズアップのフォトから明らかにしていくもの。

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赤外線サーチライト前面の放熱ロッドが一部破損しているT-90と、その箇所を板状に変更し強度向上を図ったT-90Aとの違いに注意。重箱の隅のような細かな差異でも、製造ロットごとに細かな進歩と改良が施されていることが良くわかります。そしてその細やかな違いをMENGのキットは実に正確に反映しているものだと感心することしきりで、この本が有ればMENGのキットの製作ガイドだけでなく、個々のパーツが持つ意味合いや情報量に対する理解を深めることが出来るでしょう。なんだかわからず組むよりは、一つ一つの部品が持つ意味や働きを知りながら組む方が楽しいものです。

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鋳造砲塔型のT-90の資料も大量に含まれるので、近日発売予定のトランペッターのキットの製作資料としても活用できるお得な本でもあります。ところでトラペのキットは製品名が「T-90A」だけどこれは合ってるんだろうか? ま、まあ本国ズベズダの製品は溶接砲塔で「T-90」名義だったし細けえことは気にするな!ロシアは大地で母なるおおらかさだ!!

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というようなステロタイプのロシア観を、我々は改めなければならないのかも知れません。一時期の国力・軍事力低下の谷底を抜けて新規に製造されたT-90A戦車の細部、その仕上げの丁寧さは従来のロシア戦車のイメージとは一新されたもので作業工程の要求水準が高められたのか、ともかく旧ソ連の工業水準をそのまま受け継いでいたようなT-90との差は歴然としています。その違い、ロシアの軍事技術の進展をはっきり見てとれることがこの写真集の一番の内容、収穫と言えるものなのかも知れません。

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例えば西側には無いロシア戦車の特徴のひとつとして砲塔上面の中性子放射線防護層の盛り付けが挙げられますが、本書掲載の写真またキャプションを見ると年々その防護層が薄くなっていくのが見てとれます(T-90Aに関しては複数の製造ロット個体が取材されているのでよく理解できます)。これは現代のロシア共和国が旧ソ連とは異なる戦争観を持ち、核戦争への対処を変化させていることの現れなのかも知れません。いや、防護層の具体的な中身と性能は知らないんで適当な推測なんだけどさゴニョゴニョ そんなことを考えながらページをめくっていくのも楽しい作業です。

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幸いにしてこのタイプの戦車は未だ実戦に出たことはなく、インアクションとして収録されているのは演習状況のフォトとなります。そしてこれらもまた旧ソ連時代のプロパガンダ的な資料とは違って訓練の実態を素直に見せているものといえるでしょう。ロシアの政治体制がどれほど変貌してもロシアの自然風土はひとつも変わらないので、演習時にいちいちサイドスカートなんか付けてられないらしいぞ(笑)

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長距離行軍しない時にはドラムタンクは外されるし取り付けステイも破損防止に90度回転させている、と。このあたりはディオラマ製作の格好の手引となるでしょう。またロシア戦車がどんなにハイテク化されてもここだけは一向に変わらない「丸太」が、車体ごと直接迷彩塗装されている点にも注意。どこの軍隊でも実務に当たる人たちは、模型映えする塗装をぜんぜんしてくれないのです(当たり前だ)

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車体表面の汚れ方、塗料のハゲ具合などは車両単品にウェザリングを施す際にも不可欠なガイドブックとなるでしょう。しかしロシア戦車の山盛り車外装備品って絶対につまづくヤツが続出しそうなんだけど、その点は特に問題視されないのだろうか。

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エンジンもクリアに写った画像が掲載されています。最近は随分時代が変わったもので、根気よくネットで探せば同質の資料を手に入れられるかも知れません。が、やはり手元に手軽に開ける資料があれば、その利便性の高さは疑いないものでしょう。

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これはさすがにMENGのキットでも再現されていない、環境センサー基部のマーカーランプに施された車体?番号を後方の遼車に知らせるしかけ。シンプルで他愛ないギミックだけどハイテク装備満載の現用MBTに似合わない、ちょっとアナログなからくりが可愛いものです。

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模型製作資料のみならずロシア戦車の様々な魅力に接することが出来る点でも実に貴重で有用な書籍です。むしろこれまであまり興味が無かった人たちにこそ、手に取って戴きたいものではあります。これほど一級品の内容を持つ資料を日本語で手軽に読めるって素晴らしいことです。

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近年のロシア軍が積極的に外国装備を輸入しているとはいえ軍備の象徴たる戦車は純国産を貫いている、そんなふうに思っていた時期が僕にもありました。しかし本書を読んで夜間照準器にフランス、ターレス社の機器が用いられていると初めて知りる。暗視装置の不備は湾岸戦争でイラク陸軍のT-72が多国籍軍戦車に一方的な敗北を喫した大きな理由であり、この箇所の改善に西側技術を導入している様子は大変に興味深いものです。しかし自衛隊の10式もタレスの環境センサー積んでるしで、相変わらずフランス人は商売がうまいものであります……

※無論日露両国ともライセンス生産を行っているでしょうからどちらも「国産」のパーツではあります。

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