モデルアート「艦船模型スペシャル 52: 最新 艦船模型テクニックガイド」

f:id:HueyAndDewey:20140603125755j:image

これまではヒストリカルな観点からの切り口で艦をもとい巻を重ねてきた艦船模型スペシャル、うって変わって今回はハウツーテクニックをメインに据えた特集です。既刊のモデルアートの艦船関係にはモデリングテクニック、マニュアル的な書籍も無論ありますが、艦スペならではの大きな版型を利用し豊富な写真を使って解説される様々なテクニックは、特に最近になってこの分野に手を染めたモデラー諸氏には大変に役立つものでしょう

f:id:HueyAndDewey:20140603130321j:image

近年の艦船模型、とりわけ雑誌作例には多量のエッチングパーツや超絶技巧を凝らした美麗な完成品が多く、初心者や入門者にはなかなか手が出し難い印象を与えてしまうのも事実でしょう。しかし今回の特集ではキットの素性を活かしたままでごくわずかな追加工作、限られたマテリアルの使用での基礎的なディティールアップから始まり、暫時ステップアップしていくような形で作業レベルが上がっていく作例が掲載されています。

f:id:HueyAndDewey:20140603130950j:image

ちょっとの工夫で見違えるほどの効果を発揮する空中線の取り付けも、どこでも簡単に(且つ安価に)入手可能なナイロン糸を使用すれば決してハードルの高いものではありません。ナイロン糸を弛みなくピンと張るための下準備から仕上げまでの工作も、ただ文章で説明するのではなく途中経過の写真をふんだんに使用して解説されます。基礎技術をおろそかにしないのはいかにもモデルアートらしいスタンス。

f:id:HueyAndDewey:20140603132256j:image

f:id:HueyAndDewey:20140603132320j:image

メーカー純正エッチングパーツの加工や木甲板シートの使用にも、実践的な使用法・ワンポイントの工夫が可視的なアドバイスとして提示されます。いくつも提示されるテクニックをどう活かすか、読者それぞれが作りたいものや現在製作中のキットに反映させるための取捨選択は重要でありますが、ただ技術指南書として熟読するのもまた良いかなとは思われます。特にエッチング関係の記述は艦船モデラー以外にも益するところは大きいでしょう。

f:id:HueyAndDewey:20140603132923j:image

特集ページで製作されているのはすべて1/700スケールでアオシマの大淀、フジミの金剛、タミヤの多摩/木曽など最近よく艦名を目にするものばかり。あくまで技術解説が主な内容ではありますが、実際にこれらのキット製作を計画されている提督諸氏も多くいらっしゃるのでしょうね(笑) 本シリーズ既刊分とは違ってヒストリカルな記事が大胆に削られている一方、製作途中写真に多くのボリュームを割いていることで全体としてカラーページの割合は多いようです。

f:id:HueyAndDewey:20140603133542j:image

タミヤの多摩は前後上甲板と艦橋など上部構造物のディティールアップを終えた状態での掲載となります。完成形まで持っていかずにこの途中段階で止めるのはハウツー特集ならではの構成で、やはり従来の艦船模型スペシャルとはいささか毛色の変わった内容。どのような意図で今回の内容となったのか、またヒストリカルな構成もいささかやりつくした感すらある艦スペが今後どのような方針で行くのか、様々に興味が湧くところではありますが、今回は巻末の編集後記が載っていない(代わりにモデルアート編集部移転のお知らせがあります)のがちょっと残念です。

f:id:HueyAndDewey:20140603135644j:image

タミヤの翔鶴は船体各所にエッチングパーツを潤沢に投入し素晴らしい作品に仕上がっています。そしてこちらの記事でもカラー写真は完成体より途中の製作過程に大きくページを使っていてある意味、実に贅沢な一冊なのかもしれません。艦船模型本も現在各出版社から様々に出ていますが、ここまで「教科書的」な内容に徹しているのは白眉のものかと思われます。

考えてみればガルパンブームで戦車模型本がいろいろ出てた頃も、実製作のためのガイドブックとしてはモデルアートのハウツー特集がいちばん読みやすく最も参考になるものでした。それと同じような立ち位置になりますかね、今回は……

f:id:HueyAndDewey:20140603140247j:image

f:id:HueyAndDewey:20140603145922j:image

飛行艇母艦秋津島の高雄港入港シーンは台湾モデラー郭世・(すいません人名字が出てきませんでした)氏の作品になります。ご当地ならではの豊富な資料と地元メーカーのエッチングやレジンキットを使用した全景もさることながら、興味深いのは秋津島自体は13年前の発売当時にそのときの技法・素材を使って単品仕上げとなっていたものを、あらためて現在のアフターパーツを使って製作した二等輸送艦ほかの艦艇と同じひとつの情景に組み込んだ成立過程でありましょうか。年代の違いを感じさせない高レベルに統一された作例は、たとえどれだけ時代や技術が変化しても、モデラーの目指すものが変わらない事を物語るようでもあります。

f:id:HueyAndDewey:20140603141317j:image

3Dプリンターを使用してディティールアップパーツを自作するいかにもイマドキな企画ページもありますけれど、自作と言えばちょっとした治具を作ってアフターパーツや追加工作の精度を高める昔ながらの工夫もあります。何にせよ教科書と同じくらいに大切なのは、ひとりひとりのアイデアなのでしょうね。

f:id:HueyAndDewey:20140603145937j:image

その他の連載記事はいつも通りの安定した内容、「ラベール・アーカイブス」で取り上げられているレンウォールの艦船キットはかなりユニークなものです。ニューキットレビューとしてはサイバーホビーの1/700インディペンデンス級ネームシップのインディペンデンスとフリーダム級フォートワース、二隻の沿海域戦闘艦が実艦フォトも多く掲載しての小特集。久々再販となるドイツレベル1/530空母ホーネットはアポロ宇宙船のリカバリーシップとして当時の記録写真とともに紹介。そして注目すべきはフライホーク初の大型艦モデルとなるドイツ帝国海軍巡洋戦艦デアフリンガーの作例です。第一次大戦百周年の本年よりも2年後のジェットランド沖海戦百周年に向けてこの先WW1艦船模型に波が来るかも?

f:id:HueyAndDewey:20140603142742j:image

どちらかといえば完成された作例よりもプロセスを重視した今回ですが、巻頭に掲載されているアオシマ新製品1/700水上機母艦日進はその素晴らしい――むしろ凄まじい――完成度に思わず息を飲みます。この作品は巻頭のみならず表紙を飾っているのですが、それですら従来イラストで想定を飾ってきた艦スペでは異例のこと。その異例さに充分応じるだけのクオリティをもってディティールアップが成されたまさに最新の艦船模型テクニックを存分に反映させた逸品です。

f:id:HueyAndDewey:20140603143236j:image

従来ではよく1/350のラージサイズモデルを巻頭に持って来ることが多かったものですが、それらに比べて小さな1/700モデルに対してむしろ一層の接写がされたフォトを、見開きページを贅沢に使用して艦体各所のディティールを魅せてくれるもの。日進といういささか特殊な性格、構造を持つフネの隅々までに注意深い配慮がなされて大発の中には4トン牽引車と10cmカノン砲まで(!)作りこまれています。画像に乗っているさまざまな情報が実際のキットサイズとまるで一致しなくて困りますね(笑)

まあ困ると言えば今回この作例が巻頭に置かれていることで、最初のページを開いた瞬間「おなかいっぱい」になる読者が頻発してるんじゃあるまいかと、ちょいと心配になるのが困りものです(w;

あわせて読みたい