モデルアート「零戦の追憶」

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これまでモデルアートからは零式艦上戦闘機に関する本が数多く刊行されてきましたが、本書は一風変わった内容です。

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ただいま公開中の映画「永遠の0」とタイアップしての作品紹介、また原作小説を執筆した百田尚樹をはじめとするスタッフインタビューなど、いわゆる航空機モデラーよりも幅広い層に向けた編集方針が伺えます。


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太平洋戦争の激戦地であり作中の舞台ともなったラバウルの現在の姿は、美しい自然の中にも往時の面影をしのばせるもの。終戦より半世紀を越えてなお残る機体の残骸や基地設備の遺構からは、映画や小説から受けるものとはまた違った感慨を得ることが出来るでしょう。

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1970年代に私費を投じて零戦を日本に持ち帰った石川昭氏の活動記録が大きく取り上げられています。本人の手記によって伝えられる海没した機体を現地のアマチュアダイバー主体のグループで引き上げる様子は苦闘の連続で、持ち帰った機体の残骸が龍ヶ崎飛行場でパーツ単位で売却される結末まで、恥ずかしながら全く存じ上げなかったエピソードでした。

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零戦各型の機体バリエーションやヒストリカルな記事の充実はいつものモデルアート本と変わらぬものの、本書では特にビジュアル面が充実しているように感じます。鳥瞰図で作画された機体図は細かな差異が理解しやすいものですし、戦時中の報道写真からは当時の雰囲気や空気といったものを知ることが出来ます。ここでもまたターゲットとしているのは一般の読者層のように感じられますね。

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「永遠の0」のみならず近年の零戦関連の事象をまとめたような一冊でもあり、先日まで所沢の航空発祥記念館で展示されていたプレーンズ・オブ・フェイムの五二型は搬入時の組み立て手順の詳細から細部のクローズアップまで様々なフォトが掲載されています。同博物館スタッフによる動態保存を全うするための努力も多くうかがえる良い記事です。

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模型作例は巻末にまとめられ、こちらは「永遠の0」の内容に直接沿ったものとなっています。そのために従来模型雑誌の零戦記事では(どちらかと言えば)異端扱いだった特攻隊の機体、童友社の二一型<爆戦>が大きく扱われているのには驚かされました。元が古いキットだということもあってあまり雑誌に取り上げられないプラモデルですよねこれ。

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タミヤヨンパチの五二型は映画の中でも重要な性格を持つ、721空“神雷部隊”の所属機体として製作されています。神雷部隊の零戦は以前に某社から限定版でリリースされたことがあったように記憶していますが、キット内容では721空や神雷部隊についてなにひとつ説明がなかったことにショックを受けたのを唐突に思い出した!

「事実」は重いものです。例えフィクションであっても、むしろフィクションであるからこそ、重い事実の一端を知るためのとば口として重要な物なのかも知れません。

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映画撮影のために作られた実物大の零戦(現在では大分県宇佐市平和資料館に展示)も興味深いものですが、本書収録の作例ではタミヤの古い1/48二一型を本体無塗装で仕上げたものがとりわけ印象深いです。成形色を活かしてわずかな細部の塗りわけのみ、ガンプラなどで言うところの「かんたんモデリング」に近いスタイルかと思われますが、実に自然な灰緑色(明灰白色、と言ってしまいますね古い人間ですね)の仕上がりとなっています。近年エアモデルでも多色成型を進めるメーカー・製品がありますが、モデルアート誌でしかも昔からよく知られたキットで、ここまで鮮やかな作品をみられるとは思いもよらず。

やはり映画と関連して、マニアだけでなく広く一般の読者に向けての編集方針が伺えます。本来映画公開前の「予習」として刊行されたものですが、映画をごらんになった後により一層深い理解を得るためにもお勧めできる一冊です。

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――しかし、「零戦と戦ったアメリカ軍の戦闘機」の記事でベルP-39エアコブラが完全にハブられているのはどういうことでしょうか。そこだけはちょっと不満が残ります。エアコブラが零戦の好敵手どころか好餌だったからでしょうか……

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