モデルファクトリーヒロ「ジョーホンダレーシングピクトリアル #16: モナコグランプリ 1967」

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マシンにスポットを当てて来たシリーズ既刊と違って、今回のジョー・ホンダレーシングピクトリアル16巻は1967年F1GP第2戦、モナコGPそのものを採り上げる内容です。

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60年代、F1マシンがまだ葉巻型をしていた時代を扱うのは本シリーズでも初めてのこと、またこの1967年モナコGPはジョー・ホンダ氏が初めて(つまり、日本人が初めて)フォトグラファーとして取材を行ったF1グランプリでもあり色々と記念碑的な一冊です。空力ウイングもスポンサーロゴもない時代の描くマシンは地味ながらも武骨で、どこかストイックなイメージが湧きます。第二次世界大戦当時のレシプロ戦闘機みたいな…と言ったら例えが遠すぎるかしら。

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カーナンバー18のフェラーリ312を駆る期待の新人ロレンツォ・バンディーニ。本書では相棒クリス・エイモンのカーナンバー20と共に多めのフォトが掲載されています。バンディーニはジョン・サーティーズに代わってフェラーリを背負って立つエースドライバーと目されていましたが、このモナコGP決勝レースで2位を走行中にクラッシュ、3日後に世を去りました。この時代、ドライバーたちは現在よりもはるかに危険と隣り合わせだった時代でもあります。

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ジャック・ブラバムやブルース・マクラーレンなどオーナードライバーが参加できる余地があった時代でもあり、グランプリ全体の空気や雰囲気もいまとは随分異なっているように感じます。それは美しいフォトの隅々からも伝わって来て、デニス・ハルムのブラバムBT20が立ちあがって行くヘアピン脇のバリアがご覧の通りタイヤじゃなくて粗朶束(「そだたば」と読みます)です。モナコ市街地の狭いコースでシートベルトすら無いF1マシンを操るドライバーたちの心もちは、ちょっと想像が付きません。リスクとか覚悟とか、観客の側でも違うのだろうな。

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グランプリ参加2年目のブルース・マクラーレンモーターレーシングはF2規格のシャーシーにBRM製V8エンジンを搭載したマクラーレンM4Bで参戦しています。ひときわ小さな車体は如何にも非力に見えますが、それでも4位入賞のリザルトを残しているのはモナコのコース特性にマシンが合致したことと、やはりブルース・マクラーレンの腕前のなせる業か。

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こちらもやはりF2マシンを投入しているマトラ・スポールMS7、マシン後部のエンジン周りは綺麗なラインに仕上がっていて、全然関係ないんですが「銀河漂流バイファム」に登場したパペットファイターのデザインはF1マシンに由来するって話に今更ながら納得します。や、最近MG誌で見たばかりなのでふと浮かんで(笑)

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コスワースDFV登場前夜の時期なので、エンジン関係はどこもユニークでバラエティに富んでいます。イーグルT1Gに搭載されたウェスレイクV12エンジン(左)とBRMP261のP56V8エンジン。“アングロ・アメリカン・レーサーズ”イーグルは全てをアメリカのメーカー/ドライバーで賄ったオールアメリカンのF1チーム、ブリティッシュレーシングモーターズはアルフレッド・オーウェン卿がチームオーナーとしてエンジンまでも自社開発を行っていたフルコンストラクターで対照的なF1チームです。現在ではその名を聞くことは絶えて無く、考えてみれば半世紀近く前の話ですので、消え去った物も多いのでしょうね。

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こちらはBRMでも新型シャーシのP83。3リッター規定に合わせて開発されたやはり新型のP75エンジンは1.5リッター水平対向エンジンを上下に二つ重ねたH型16気筒ってなにその英国面。2本のクランクシャフトが存在する不合理で重い設計のエンジンは決して高性能とは言えないもので、冷却配管がモノコック上面を這いまわってる無理矢理加減はまるでカヴェナンター巡航戦車のようだな(戦車脳)

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この時代のF1については精々ホンダのマシンについて、それも非常に限られた範囲でしか知識を持ち合わせていなかったので、様々な事柄が新鮮に受け止められます。日本国内ではメジャーな人気のある時期とは言えないかも知れませんが、むしろ普段この時期この時代のF1グランプリに興味を持っていない方々にこそ、新しい知見を得てほしいような一冊と言えましょうか。

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巻末には上野和秀氏によるロレンツォ・バンディーニについてのエッセイ、平野克己氏によるジム・クラークの一文も寄稿されています。従来のレーシングピクトリアルとは一風変わった今回も、見どころ読みどころの多さに変わりはありません。

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