モデルファクトリーヒロ「ジョー・ホンダレーシングピクトリアル#02:タイレル P34 1977」

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ジョー・ホンダ氏の長年にわたるF1取材によって構築されたアーカイブの中から、選りすぐりの名車の活躍をシーズンで追った写真集。第二弾はF1史にその名を残し、モータースポーツに詳しくない方でも一度ならずその存在には触れたことがあるであろう6輪車、タイレルP34が選ばれました。前回ロータス97Tに比して増ページ、見開きによる大判クローズアップ写真も増えて一層密度の高い内容となっています。

英語発音を日本語文字でどのように表記するかは些細なことなのですけれど、やっぱりこの時代は「ティレル」じゃなくて「タイレル」だよなーと思う訳です。さて前年1976年に颯爽と登場しドライバー・コンストラクターズともにポイント第三位と好成績を占めたタイレルチーム、翌77年には大手スポンサー、ファーストナショナルシティ銀行グループの支援を得、一層の活躍が期待されていました。が、しかし、2年目の成績は振るわずシーズン後にレギュレーション変更が成されたため、以後のF1界には二度とこのようなアバンギャルドなマシンが疾走することは無かったのです。

前年とうって変わったP34低迷の理由は、主にグッドイヤーが小径フロントタイヤの開発を縮小した為とされています。シーズンを通じてバランスが不安定だったことはマシンの外観に如実に表れていて、開幕当初は新型カウリングによるフルカウル仕様。

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(ラウンド4 アメリカ西GP)

シーズン中程には前年の仕様に戻されたハーフカウル仕様

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(ラウンド5 スペインGP)

最終的にはサイドポンツーンと分割され、視界も向上した軽量の新型フルカウル。

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(ラウンド17 日本GP)

と、大別して3つのバージョンに変化しています。ここまでの変化はタイヤバランスだけではなく、マシン全体の重量やサーキット特性に合わせての仕様変更でもあり、チーム事情は推して知るべしでありますが、一冊の本としてまた一読者の立場としてはバラエティーに富んだ内容で面白いものになっているかと。皮肉な話ではありますが…

ところでフロントウィングにオイルクーラーが移設されたのはシリーズ後半になってからなのですが。それでもelfのロゴマークが美しいバランスで配されているところは当時のF1のスタイリッシュさを示してほれぼれしますねぃ。

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美しい写真を無造作にトリミングするのはあんまり乱暴だなと自戒しつつ、しかしこの年を象徴するようなシーンを切り抜いてみました。ラウンド09フランスGPから後方の#3ロニー・ピーターソン車と先行する#4パトリック・デバイユ車。#3は前年度のままのフロントトレッドですが#4はサブフレームを介してワイド化を図っています。以後のレースでは両者ともワイドトレッド仕様に一本化され、スポーツカーノーズと小径フロントタイヤの組み合わせで空気抵抗を減じるという、当初の6輪車開発コンセプトは変質しました。いわばその破綻の瞬間を捕えたように思えるその一瞬、この一枚の写真だけでもこの本の価値は相当高いものだと唸った次第。

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変更されたフロント周りもしっかり記録されています。これはイギリスGPに於けるモノクロ写真ですが、本書ではもちろんカラー写真も収録されていて、E.JANの日本GPトランスキット製作の際には欠かせないものかと。

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しかし製作資料と言えばやはりこっちが外せない。タミヤの「1/20 タイレル P34 1977 モナコGP」併せて紹介してみましょう。新製品ではないですが現在好評セール中を支援支援。

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基本的にデカールを変更したマイナーチェンジ製品でありベースになったP34はグランプリコレクションシリーズ第一弾、1977年発売のキットです。1/20スケールのF1プラモデルを打ち立てたのはタイレルP34ということで、今更ながらに6輪車が模型業界に与えたインパクトの大きさに驚かされます。タミヤの本社に実物が鎮座しているのを目にした人も多いでしょう(アニメ業界にも大きなインパクトを与えているのですが、その話は除外除外)

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こちらは新規パーツとして起こされているHランナー。コックピット周辺やリアウイングなどが主な内容で、シャープなエッジのみならず塗装がしやすいホワイトの成形色で、実に実にありがたい配慮(笑)

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モナコGPにおけるピーターソン車を再現すべく、切り書き指示が成されています。目立つ所なので丁寧な作業を心がけたいものでして、ジョー・ホンダ写真集にもどればこの箇所もきっちり撮影されている。

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予選の途中に切り飛ばしたにしてはリップの処理なんか丁寧ですねえ。ドライビングスタイルが現在とは随分異なるところにも注意。このキットモーターライズ全盛期の名残がいくつかありまして、

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最近のF1にはあまり無いドライバーフィギュアが付属しているのです。ちょっとしたディティールアップでスゴク見栄えがすると思います。ピーターソン用ヘルメットの「まびさし」はH枠に有り、まずは透明バイザーの自作から!と、言うだけならただのアジテーターで実に楽だな…

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防火マフラー・ブランケットはかなり目立つものですね。本書のモナコGP本選写真では確認できないアイテムなのですけど。

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予選は雨が降ったんでレインタイヤを履いてる場面もあります。イカツクてカッチョエエ!んだけどP34用レインタイヤのパーツセットって聞いたことも無い(´・ω・`)

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同じくモナコ予選でテストされた新型リアウイング。ナチュラルメタルが栄えますけれど、開発者がドイツ人のカール・ケンプ博士ってなんだか強そうだな(銀英伝脳)

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ふたたびプラモに戻ってフォードDFVエンジンのAパーツ。DFVは史上最も長く多くのフォーミュラマシンが使用したエンジンで、このAパーツもタミヤのいろんなF1キットで長く使用されていますね。ロータス79でハセガワと競合した際には若干不利な要素と受け取られたりもしましたけれど、30年前の設計なのか30年保つ設計なのか、判断の分かれるところですかねー。

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さすがにこれは古めかしいところですけど、外観を損なわない配慮を30年前にやってたことも、確かなのです。

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本写真集は製作にあたって実に有り難い恰好の資料となりますが、コックピットに増設された角型タコメーター(目立つ!)とかエグゾースト先端の形状(目立たない!)とかあんまり見過ぎるとうわあな気分で作る気を失くしかねずでこれがいわゆる「資料のえじき」とか(言わない)

個人的な話ですけどタイレルP34といえばやはりこのツートーンカラーだなと思うのですよ。タミヤ本社で実物見た時にどうもいまいちピンとこなかったのはカラーリングが紺一色の76年仕様だったからかな?

 

(マシン自体は77年の仕様です。未見ですが河口湖自動車博物館に在る実車も同様のカラーで、7台しか作られなかったP34が日本には2台も在ります)

その上で外観はハーフカウルでエンジン剥き出しの折衷案的なスタイルはモナコGP含めて3戦しか走って無い、いわばレア物です。タミヤが76年仕様のキットをベースに77年モナコGP仕様を発売したのはよくわかる。でもね、

そんなにF1くわしいわけじゃない自分にとってもこのツートーン・ハーフカウルのP34がいちばんしっくり来るスタイルなのはなんでなんだぜ?

…ちょっと調べてすぐにわかった。太古の昔にトミカのミニカーでこの仕様のを持ってたんだ。トミカもやっぱり前年仕様の色変え製品で、1977年のチームタイレルが成績低迷したことは模型・玩具メーカーにとっては好都合な結果だったんだ…

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