三栄書房「F1 Racing グランプリカー 名車列伝 Vol.7 」

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三栄書房のこのシリーズは毎回切り口が変わっていて何かと興味深いのですが、今回VOL.7は20年近くF1グランプリのトップシートに座り7度の世界王者に輝くミハエル・シューマッハ個人にスポットを当て、1991年から(途中のブランクを挟み)2013年に至るまで「皇帝」がその手で操ったマシンたちをまさしく列伝スタイルで紹介しています

合計20台にものぼるF1マシンを乗り継いだシューマッハならではの個人で一冊が編集できる内容、前書きによればこれに匹敵するのは史上最多出場記録を持ち19台のマシンを駆ったルーベンス・バリチェロの存在が挙げられるそうですが、バリチェロ個人にスポットが当たるようなことは無いんでしょうか?無いんでしょうねえ…

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よく「彗星のように現れた」という表現がありますが、1991年のF1グランプリ第11戦ベルギーグランプリに急遽出場したミハエル・シューマッハは決して降って湧いたわけでは無く、それまでのキャリアの積み重ね、実績の上にシートを得ています。それでもやはりシーズン途中の出場で魅せた鮮烈な走りは、予選7位決勝リタイアとリザルトこそ残せませんでしたが突然降って湧いた彗星のように強烈な印象を残しました。当時まだGP参戦1年目だったジョーダン・チームのジョーダン191は新規参戦チームの第一号マシンとは思えぬほどの高性能を示し、美しいカラーリングと流麗なボディラインと共に人々の記憶に残る名車です。

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続く第12戦は突然のベネトン・チームへの電撃トレードが話題を呼びました。この時期はF1をリアルタイムでいちばん熱狂的に見ていた時代なので、この事件のことはよく記憶しています。記憶しているのはシューマッハよりも茫然としているロベルト・モレノの姿だったことはともかく、形色のボディにハイノーズのベネトンのマシンたちは当時も今も「バナナ」と称されていますがこのB192(と翌年の193の)ちょっと上向きになったノーズのラインはバナナと言うよりまるで獰猛な黄色い人食いザメで、実際シューマッハの攻撃的な走りとマシンやチームの性格が一番合致していたのは、この黄色いベネトンの時代ではないでしょうかと、若干記憶を美化させながら。

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シューマッハがその本領と「皇帝」のニックネームをほしいままにしたのはやはりフェラーリの時代でしょう。20世紀最後のフェラーリF1、フェラーリF1-2000はポールポジション10回とGP優勝10回を記録しフェラーリチームに2年連続のコンストラクターズ王座と、ミハエル・シューマッハに3度目かつフェラーリ移籍後初となるドライバーズチャンピオンのダブル・クラウンをもたらした記念すべき一台です。

この時代は日本でのF1グランプリの注目度も現在よりずっと大きく、いま挙げた3つのマシンはすべてタミヤからキット化されているものです。往時の活躍を知る方々はともかく、「過去の名車」としてはじめてこれらの車種に接するひとにこそ、読まれてほしい一冊なのかも知れませんね。

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もちろん本書の内容としてはひとつひとつのマシンについて、その設計思想や走行性能、なによりもリザルトを記述していくのが主なのですが、やはりそこから浮かび上がってくるのはミハエル・シューマッハという稀代の名ドライバーと彼をサポートする様々なスタッフの姿です。それは1990年代から2010年代の初頭までの期間に、めまぐるしく変化するF1グランプリのレギュレーションと戦った人々の姿でもあり……

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4年間の空白を開けて復帰したメルセデス時代のシューマッハは往年の生彩を欠いていたと言わざるを得ないでしょう。日々進化するF1マシンと日々進歩するF1ドライバーの中にあっては、一時引退ののち復帰というコースを歩むことはやはり至難のわざで、その点ちょっとナイジェル・マンセルを思い出したりもします。メルセデスW03は57年ぶりの勝利をチームメルセデスにもたらしますが、そのフィニッシュラインでステアリングを握っていたのはシューマッハではなくニコ・ロズベルグなのでした。

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シューマッハのF1ドライバー来歴には紆余曲折もありながら、やはり20年近くの年月をトップチームで走り続けたことは大きな意味があり、ただ歴代の乗車マシンを見るだけでもレギュレーションの変遷と様々な対応策を知ることが出来ます。イマドキのF1のハイテクぶりを見るにつけ、90年代に言われていた「ハイテク禁止」令って一体なんだったんだろうと述懐するのは自分が古い人間だからだろうなあ(笑)

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決して模型のためのディティール本ではないのでクローズアップのフォトなどは少ないのですが、それでもF1の模型を作るためでのモチベーションとなるバックストーリーを知るにはよい本ですし、比較的お手頃な価格で数多くのマシンを知ることが出来る一冊です。(個人的にはこのシリーズ、VOL.5のミナルディ特集がイチオシである)

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マシンやドライバーの在り方も含めてF1の有り様は日々最先端を極めていくものですけれど、こと模型業界に関してはいささか懐古趣味的な傾向にある現在だろうと思われます。それには見合った内容と言えるかも知れません。それもまた、賛否いろいろあるのかもしれませんが。

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たらればの話にはあまり意味がないのですが、1991年にシューマッハがGPデビューを遂げるにあたっては、当初フットワークから出場する噂もあったとは本書を読んで初めて知りました。もしもこの「皇帝」のデビューが当時はジャパンマネーで運営され、紅白のナショナルカラーを纏っていた同チームであったなら、その後のレース活動や人気のほどは、また別のものになっていたかもしれません。警官に催涙スプレーぶっかけたベルトラン・ガショーの蛮行に、我々は感謝するべきなのかもしれませんね。

でももしシューマッハのデビューがポシャってたらさあ、ロベルト・モレノが91回優勝して7度のチャンピオンに輝く世界線があったのかも知れないんだよ!?

(ヾノ・∀・`)ナイナイ

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