三栄書房「GP Car ストーリー Vol.1 マクラーレン MP4/4 ホンダ 」

f:id:HueyAndDewey:20120911125954j:image

手頃な価格と適度なボリュームで著名なF1マシンを解説する第一弾、1988年のシーズンに空前絶後の16戦中15勝の記録を残したマクラーレンMP4/4・ホンダを取り上げます。

f:id:HueyAndDewey:20120911130233j:image

アイルトン・セナ、アラン・プロスト、ホンダのエンジンにマールボロの鮮烈な(奇しくも日本のナショナルカラーである)紅白の塗装と、80年代末期から90年代にかけて日本を席巻したF1ブームの立役者が全部揃ったパッケージング。本書では記録写真や当時の関係者へのインタビューを通じて稀代の名車の全貌に迫って行きます。

f:id:HueyAndDewey:20120911130556j:image

今は亡きセナはもちろんのことプロスト本人への取材は無いのですが、表舞台に立たずにチームの中で核となってレースを支えた人々の証言は貴重でしょう。テクニカルディレクター、ゴードン・マーレイが語る「MP4/4はブラバムBT55のコピー」は読み応えのある内容です。同じ設計思想の正常進化型として、燦々たる成績に終わったBT55と比べてマクラーレン・ホンダMP4/4はどこが優れていて、あれだけの結果を残す事が出来たのか。マシンの細部だけでなく、(これはちょっと意外だったのですが)マーレイ移籍当初のマクラーレンは非常に杜撰な――よく言えばフランクな――チーム運営が成されていて、まず必要なのは品質管理や人員統制の部分に於ける意識改革だったことなどが語られています。組織面でのイノベーションはホンダスタッフの気質とうまく合致したとも言えるのでしょうね。

f:id:HueyAndDewey:20120911131803j:image

セナとプロストのドライビングセンスの違いやセッテイングの方向性の差異も興味深いところです。このふたりの確執もふくめて当時の現場の生の証言を伝えるような記事からは、あくまでマシンを題材にした一冊ながらも、チーム全体で様々な形に携わっていた「人々」の姿が浮かび上がってくるような印象を受けます。

f:id:HueyAndDewey:20120911133237j:image

そしてこの偉業の立役者にひとつホンダのRA168EV6ターボエンジン。ターボ規制が1989年からに前倒しされ他のエンジンサプライヤーがターボから手を引く中、最後まで開発投資を続け不利な条件を敢えて有利な可能性へと転じたホンダスタッフの健闘無しでは15勝の結果は得られなかったでしょう。そしてリタイアするほどのマシントラブルがまったく起きなかったことも脅威的で「(テスト走行を行った)イモラでの最初の数ラップが、ギヤボックスに本格的にパワーをかけてみる初めての機会だった」F1界初の3シャフトギアボックスがシーズンを通じて順調に稼働を続けたことなど、あらゆる要素が勝利を裏付けていたと知ることができます。唯一勝ち星を得られなかったイタリアGPは、あれは概ねエンツオ・フェラーリのたたrいや守護によるものです。

f:id:HueyAndDewey:20120911134809j:image

グラフィカルな点では全16戦ごとの仕様の違いと細かなポイントが多くのフォトで列挙されています。さすがに今現在ではMP4/4のキットが市場に流通してはいないのでこれが直ちにモデリング資料になるとは言い難い面もありますが、既にお手持ちの方ならば十分活用できるでしょう。

f:id:HueyAndDewey:20120911135341j:image

マーキングの差異だけでなくヘッドレストの有無も大きな識別ポイント。コックピット内装の変遷なども掲載されて、全体のページ数は抑え目でも記事内容は濃い目の内容です。

f:id:HueyAndDewey:20120911135727j:image

この先どれほど優秀なドライバーが現れても、1988年のアイルトン・セナとアラン・プロストのような走りをすることはないでしょう。良くも悪くもカリスマ的なふたりが対等に競い、且つ自分たち以外のチームやレーサーたちは全く相手にならないという稀有な空間が形成されたからこそのセナ・プロ対決。ゲルハルト・ベルガーやイワン・カペリといった懐かしいドライバーたちが往時のバトルを回想するなか、「MP4/4のスピードは別次元であり、手が届かない」とする当時ベネトンチームのメカニックを担当していた津川哲夫氏の言葉は逆説的ながらも重いものです。

「(前略)したがって、MP4/4の記憶は薄い。型も機構もスタイルも走りも覚えてはいるが、僕らには無関係だったから覚えていないのだろう。

 僕らにとってマクラーレンMP4/4・ホンダは、浮世離れと言える次元を走り抜けた、現代のF1シーンには二度と登場することのないタイプのマシンであり、それは旧式なスタイルを誇示してきたF1界に衝撃を与えた、時代を揺るがすマシンだった」

なぜマクラーレンMP4/4・ホンダは16戦15勝という不世出の記録を成し遂げられたのか、その答えはここにある。つまり…

速かったんです。

f:id:HueyAndDewey:20120911141430j:image

そんなことはあたりまえ、でもそのあたりまえをやり遂げるためには大勢のスタッフがベストを尽くして全てが上手く廻ったからだということか。なにかひとつでもトラブルやミスがあればただちに敗北へとつながるF1GPにあっては、やはりセナ・プロだけではなくこの快挙に携わった全ての人々に惜しみない称賛を贈りたい。そんな一冊。

f:id:HueyAndDewey:20120911141757j:image

でもジャン=マリー・バレストルFISA会長(当時)はイヤなひとだと思います(´・ω・`)

あわせて読みたい