伊太利堂「写真集 八九式中戦車」

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イタリア軍研究家吉川和篤氏による旧日本軍八九式戦車の写真集。イタリア軍のみならず日本軍関係の資料蒐集でも知られる伊太利堂の刊行です。

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八九式中戦車の写真を各形式ごとに分類した内容です、と言ってしまうのは簡単ですが、まず「八九式軽戦車」として正式採用された本車が追加装備や設計変更を受け「八九式中戦車」、さらにディーゼルエンジンを搭載した「八九式中戦車乙型」の開発とそれに伴う甲型への名称変更という八九式中戦車の発展と各形式の正確な分類は近年になってようやく実態が明らかになったものです。以前は誤解や誤認も多く、少し前の本でも外観から甲乙の形式は分類できない旨の記述も散見されました。それらの研究内容の進捗を踏まえ、一次資料を中心とした貴重なコレクションに適宜適切なキャプションを加えて一冊の書籍としたものです。

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オフセット印刷による同人誌、俗に「薄い本」と称される刊行形態ではありますが、一般刊行書籍にまったくひけをとらない美しいレイアウトやページデザインのごく厚い内容です。クリアーな画質を保ったまま大判で収録された写真の数々からは八九式の様々なディティールのみならず当時の国内外の光景がよく伝わります。

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迷彩塗装の変遷や車体番号のマーキング位置・書体など模型製作の資料としても十分に活用できるものです。「ガールズ&パンツァー」のキットはいまちょっと品切れの状態にありますが、OVAの発売に合わせてきっと再販してくれるでしょう(と、西のほうをチラチラ見ながら言ってみる)

考えてみればOVAの発売が七月に伸びたのは間にホビーショーが挟まるので模型屋的には却ってイヤナンデモナイデスヨ

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以前から八九式中戦車が「何かを乗り越える」状態の写真はよく見るもので、本書にも何枚か収録されています。戦車の登坂能力を示すデモンストレーションとしては世の東西を問わずに有効な構図であることは言わずもがな、加えて車体前面に大きなシルエットを有する八九式であれば迫力も倍増といったところでしょうか。それだけ多くのカメラマンの琴線に触れた画面は必ずや情景の製作においても効果を発揮するものと思われます(昔のモデルアートの戦車模型別冊ではどんな本にも大抵一両は土手を越える戦車の作例があったものです)

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本書を読んであらためて気づかされるのは演習場や戦車学校近辺の市街地で見られる戦車と人との関わり、距離感にといったものにどこか明るい雰囲気、陽気さを感じられることです。むろん日中戦争やノモンハンでの実戦で撮影された写真も数多く含まれるのですが、八九式中戦車が主力を務めていた時代の空気感は(わずか十年に満たないほどの差とはいえ)太平洋戦争末期の日本戦車に感じる悲壮さとは大きく異なるものです。無論こういった印象を受けるのは本書の編集方針や収録写真の性質によるものでもありますが、いまの時代に八九式中戦車がここまで人気を博す理由を垣間見るような思いを、やや。

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ガルパンからの流れでも模型製作のためにでも、もちろん純粋に日本戦車の研究資料としても一級品の内容です。これらの資料と最近の八九式人気とで、いわゆる甲型の新車体だけではなく旧砲塔に旧車体の八九式軽戦車とかキット化してほしいなあ(と、もう一度西のほうをチラチラ見ながら)

ここからは余談。本書には八九式に至る前史として輸入車両の写真もいくつか収録されています。そのひとつイギリス製ホイペット中戦車(英語で読むと「ウィペット」なんだってさ)

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そのむかしとあるアメリカ人モデラー(名前は特に秘すことにします)が某雑誌向けにこの日本軍仕様ホイペット作ってたとき、「星章が無いならサンダーバーズのデカールから切り出せばよいのです」などと囁いたのは、アメリカ国旗を刻んで日本軍のマークを作るような話なんで冷静に考えると失礼だよなあ。てなことを唐突に思い出した。まー流石に時効でしょうねえと私的述懐でまとめます(笑)

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