光人社「月刊丸別冊 陸上自衛隊の戦車」

f:id:HueyAndDewey:20110729203405j:image:h250

月刊「丸」1月別冊ということで半年ほど前に出た本をなぜに今更取り上げるかといえば。

f:id:HueyAndDewey:20110729203933j:image

正直に書いてしまいますと刊行直後は他の出版社でも同様な書籍が相次いでいたことも有り、ちょっと本書はスルーしていました。表紙にもなっている10式戦車は実に異例なことですが試作段階から広く一般に公開され、出版関連のみならず様々な媒体が積極的に取材を行い、結果同じ場所で同じ車両を取材した同じような画像が溢れたりもするものでして…

f:id:HueyAndDewey:20110729205424j:image

しかし改めて本書内容を紐解いてみれば、同じ場所同じ車両を取材しても、掲載されている情報内容は違ってくるものですね。いろいろ探していた10式戦車のエンジンデッキが確認できる写真を本書で確認出来たときにはこれまで未読でいた自分を、いささか恥じたものです。

f:id:HueyAndDewey:20110729210242j:image

10式に関しては冒頭にこそ据えられているものの、決してそれだけの本ではありません。タイトルこそ「陸上自衛隊の戦車」と銘打たれ90式戦車以下陸上自衛隊戦車の歴史を振り返るようなスタイルも、ありがちではありますが、しかしそこは長年取材を続けてきた「丸」編集部だけに、74式戦車G型いわゆる「74式戦車改」の各部クローズアップであるとか、最新の割には他誌があまり取り上げない「07式機動支援矯」なんて地味(且つ重要)な支援器材も載ってたりします。全般的に支援器材のフォトは豊富で、施設科ファン向きと言える内容です。

歴史をうかがわせるような写真も随分あります。冷戦時代の、当時主力戦車の位置を占めていたころの74式や61式戦車が北海道の広大な演習場を疾駆する迫力の写真は、いまとなってはどこを取材しても撮影できるものではありません。なるほど「丸」のバックナンバーから写真を集めてきたスタイルではあるのですが、「丸」のバックナンバーを当たるよりもずっと確実に、質の良い記録写真を見ることが出来ます。昔日の自衛隊車両の情景を作りたいときには格好の手引きとなるでしょう。

f:id:HueyAndDewey:20110729221547j:image

モノクロ写真の部になると資料的価値はもっと高まりそうです。大抵の書籍でしたら小さくまとめられているような米軍からの供与車両がかなりのボリュームを持って紹介されています。左側は神宮外苑で観閲式典が行われていた当時、神田神保町の廣文館書店前を行くM41ウォーカー・ブルドッグ戦車の雄姿。(ちなみに廣文館書店は現在も同じ場所で営業中です。この写真は白山通りを後楽園方面に向かって北上中のものと推察されます)また右の61式戦車はキャプションではさらりと「富士教導団戦車教導隊所属の61式戦車」と流していますがよくみればこれ砲塔機銃が銃塔内蔵式になってる二次試作車のSTA-4じゃないか。同一車両が生産型61式戦車と並んで神宮パレードに参加している写真も有りで、ちょうどいま10式の試作1号車(いわゆるTK-Xだった車両)が武器学校の所属車両になってるように、今も昔も現場では試作型も生産型も混在して使われるものなんだなーと、いろいろ納得する。

f:id:HueyAndDewey:20110729224037j:image

そんなわけで非常に昭和自衛隊率の高い一冊なのでした。結果としてM52A1自走砲や67式30型ロケット弾の写真はあっても99式自走砲やMLRSは影も形も無い(よくよくみたら99式は一枚だけ載ってた)という、とても21世紀の自衛隊本とは思えない内容に(笑) 対空車両の部でもM3ハーフトラック系列の2車種(M15A1/M16)はあっても87式AWなどまったくどこ吹く風といった有様でああ、容易に想像できますね。

「ゆとり世代め、もう勝った気でいやがるな」「よろしい、では教育してやるか」

などと呟く「丸」編集部内の有様がッ!!

そんなわけで、カラーグラビア冒頭だけを見て本文内容読まれた方にはいささか驚かれた人もおられるかと。むしろそこを見て後の続きを読まずに済ませていた向きにこそ、あえて強力にプッシュしたい内容なのです。

ページ数の半分近くを占める文字パートの方は、読みやすく判りやすい調子で自衛隊戦車の現状と歴史を解説しています。決して専門的な用語や数字の羅列に陥らないのは「丸」のスタイルそのまままで、深く突っ込んだ話や専門性の強い記述を欲する方には食い足りなさを感じることがあるかも知れません。その辺も含めて「丸」なんだよなーと思います。巻末に零戦ならぬ「九七式戦車とわたし」が無いのが不思議なくらい(w;

巻末には「近未来イフ戦記 10式戦車VS中国軍」と題して与那国島に侵攻する人民解放軍と同地に展開する10式戦車1個小隊との戦端を描いた短編仮想戦記が載ってるのですが、これに関しては「トムとジェリー」のチーズみたいですねとだけ述べるに留めておきます。

(そのこころは?穴がいっぱいです)

f:id:HueyAndDewey:20110729225745j:image

もとよりフジミの10式戦車プラモデル用資料にならないかなーという動機で読み始めた本書ですが、九州地方に配備され同地の地名を描いて防備に努めた第4戦車大隊のM4戦車や富士演習場でM4を仮想敵に火炎放射機で肉迫攻撃(!)する図など、実はタスカのイージーエイト作るのに向いた内容なのかもしれません。空気感とか時代の雰囲気とか、まあいろいろです。

ところで供与車両や61式戦車など、防衛秘密の指定解除が成されてそうな時代の陸上自衛隊の対機甲戦術を紹介したマニュアル的なものってないものでしょうかね。「61式戦車用の坑道陣地」の詳細とか面白そうなんだけどな…

あわせて読みたい