国本戦車塾「国本戦車塾 第1号 八九式軽戦車 (イ号) 増補改訂版」

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※どうせなら都合により書評記事を4回続けてしまへ。ほらバレー部八九式も再販近いしお祭りなイキオイでズンドコ

国本戦車塾の4分冊からなる八九式戦車研究本第一弾、2010年に刊行されたものを昨年末に増補改訂された版です。第一巻となる本書では制式採用当初の「八九式軽戦車」時代から乙型製作開始時までを中心に本車を様々な観点から解説しています。

なお改訂にあたって増補された内容は「九○式五糎七戦車砲の図面の一部改正、追加と第一次上海事変、海軍陸戦隊の戦車の写真の充実及び甲型後期と乙型の比較図面」(本書前書より)となっており、以前の版の全88ページから96ページへとボリュームを増しています。

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国産初の八九式戦車の開発と生産、配備などについては出版共同社刊「日本の戦車」上下巻を始めとしてこれまで多くの書籍や記事が発表されてきました。本書では改めて一次資料にあたってその事実を研究し、新しい情報を解明して一部では既存の資料記述を書き換えるような発見も成されています。

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なかでもとりわけ「九七式五糎七戦車砲と九○式五糎七戦車砲は、薬室形状は同一であり、共通の弾薬が使用され、初速は同一の弾種同士は同一であるとしか考えられない」との指摘は重要でしょう。ひとえに八九式のみならず日本戦車開発史の記述を大きく塗り替えることだと(個人的には)思います。

これは日本戦車研究に限った話ではないのですが、先行資料で提言された記述がそのまま広がり「定説」化することってよくあります。立ち止まってそこをもう一度考えてみようというのが本書と一連の国本戦車塾書籍の主旨と言えましょうか。

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主砲複座駐退機周りの装甲板が太平洋戦争開戦後の昭和十八年に於いてまで改良が続けられていた事実にも驚かされ、巷間稀に流布されている「日本軍の戦車は制式配備後の改造が一切認められていなかった」風説がまったくの誤解と偏見であることを知らしめます。

※しょーじきなところアレは某マンガのひとコマ<だけ>が抜きだされて曲解を広めてる感が否めず、複雑な気分に……

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甲型後期と乙型の相違点は模式図を用いて判りやすく解説しています。実際の資料写真を解析する際には幅広く役立つもの……とはいえ、一般の読者が簡単に見られるような資料はあらかた解析されてるでしょうから、例えばガルパン甲型のキットを乙型に改造するガイドなんかにどうでショ?

うん、まあまだマガジンキットのバックナンバー在庫してるんで、こっちを薦めなきゃいけない責務があったりするわけなのだが。

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装備内容の変遷に於いては本書が初掲載となる改造三年式弾倉重機関銃の写真がひときわ目を引きます。十一年式軽機関銃で有名なホッパー式固定弾倉を重機関銃にも導入しようと試みた火器ですが不採用に終わり、これまではその実情が明らかではなかった知られざる日本軍兵器のひとつ。

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本文中には当時の公式文章のスキャン画像も多く収録され、多くは漢字カタカナ混じりで墨書きされている物も多いそれらを読み解くのは並大抵のことではありません。然しながら適切な解読と解説により一般の読者にも一次資料の内容を伝える本書の価値は高く、これまで広く知られて来た写真にも細かなキャプションによって新しい角度からの解明が提示されます。この丸太で急造された仮設橋を渡る様子は個人的には初見。実にディオラマ栄えしそう。

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こちらは運航試験中に木橋を渡る試作車両。どこかノンビリして穏やかな姿でもあり、八九式戦車独特のユーモラスな雰囲気を伝えています。トルコ帽型キューポラやくの字に折れた車体前部は表紙イラストを飾る「八九式軽戦車」時代の姿ですけれど、こっちのバージョンの立体化って無いものですかねえ。(チラッチラッ)

と、豊橋方面を見つつ。

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