大日本絵画「アムトラック 米軍水陸両用強襲車両」
単独の車両を紹介することが多いオスプレイ・ミリタリーシリーズのなかにも、複数の車種を扱った内容の本はいくつもあります。その中でもとりわけ本書は一冊の内容で記述される年代が幅広い一冊。
フロリダの沼沢地用救難車両から始まって朝鮮・ベトナム戦争を経てLVT-7にまでいたる劇的ビフォーアフター(笑)な変遷が簡潔にまとめられています。尚原著は1999年発行表記がありますが、本文内容は1980年代初頭まで。1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争に於けるLVTP-7(もしくはAAVP-7A1)の活躍は記憶に新しいところですが、残念ながら記述されてはいません。砂漠を長駆進撃する様は「スターウォーズ」のサンドクローラーにも似て、非現実的な光景を見せていたのですが…
一番のウェイトを占めているのはやはり第二次世界大戦に於けるアムトラックの開発と発展、戦歴と進化の様相です。特に太平洋戦域での島嶼戦はアムトラック/アムタンクの主戦場であり、攻略作戦ごとに新兵器を投入すると言われたアメリカ軍の進捗ぶりには目を見張るものがあるでしょう。また同様に防御する側の日本軍も島ごとに新しい防衛手段を講じてはいて、そちらの詳細は「太平洋戦争の日本軍防御陣地」に詳しいです。併読推奨なのです。
水陸両用戦車という存在は果たして船なのか車両なのか、どちらに重点を置くべきなのかは開発ドクトリン・設計思想によって異なるものでしょう。火力支援型アムタンクの運用に関しては米軍もジレンマに襲われたようで戦場の現場で発生したいくつもの混乱が明らかにされています。しかし本質的にこの車両は「大きくて積載能力の高い便利なトラック」なので現場では大変便利に使われる。現地改修されてP-39エアコブラ戦闘機(!)の37ミリ機関砲を搭載した火力支援型 LVT(A)-2には何やら凄みが感じられますし「イモ掘り機械」と称された工兵用LVTE-1はサンダーバード2号の中から出てきても驚かないぞ。半世紀以上に渡って海兵隊の行くところ何処でも現れるイメージのあるアムトラック。でもWW2当時は陸軍の方が部隊数も配備車両も多かったとかで、それはオドロキ…
カラーの塗装解説図も若干古い時代のものにとどまっているので例えばホビーボスのAAVP-7の製作資料に使うなんてのは、ちょっと荷が重い。しかしイタリア海兵隊仕様やアルゼンチン軍がフォークランド島上陸に使用した(初の実戦投入だった)LVTP-7などの珍しい図版が掲載されているのです。
まぁ…「珍しい」がイコール「面白い」とは、限らないのですが(^^;
アリゲーターから始まってシードラゴンに至る水陸両用強襲車両の一族は、常に最前線にあって激務に投入されてきました。タラワに屍を晒したLVT-1やベトナムで被害の続出したLVT-5など、それらの歴史は決して安寧なものではなく、むしろ損害の多いものです。なぜそうなるのか、本書では簡潔かつ明確に指摘が成されているのです。曰く――
すでに海兵隊の戦術家たちの間から、LVT(X)を疑問視する声が上がっていたが、それも当然だった。そもそも水中ですぐれた性能を発揮するのと、陸上において陸軍の歩兵戦闘車なみに活躍するのとは、まったく違う世界のことであって、それを同時に成立させようと考える点に無理があった。もっとはっきり言うと、LVT(X)は陸上では歩兵戦闘車にかなわないのだ。
この文章は1980年代末期に開発計画が頓挫したLVT(X)についてのことなのですが、最近でも海兵隊向け新型強襲車両ってキャンセルされてたよなァ…とか思わされたものでして、含蓄に富んだことです。海千山千、二兎を追うのは大変なのです。
そんなわけでこの先も当分はAAV-7が上陸作戦の主力を占めるのは間違いなし、スティーブン・ザロガ先生には是非とも湾岸・イラクを含んだLVT-7/AAV-7本を、ひとつものしてほしいところですな。
その際には是非ともこのフリーダム過ぎる試作車両の詳細もですね、
左はM551シェリダン軽戦車砲塔に105ミリ無反動砲を搭載(ってどんな砲尾構造なんだ)した試作車で、右は陸軍の中出力レーザー対空防御システムの試験車両なんですと。