大日本絵画「スケール アヴィエーション Vol. 086」
スケールアヴィエーション7月号はまさかのスウェーデン空軍特集。どんな美女よりもはるかにセクシーなグリペンが表紙を飾ります!
いわゆる北欧三国の中でも武装中立国としての長い歴史を誇るスウェーデン王国。自国の政治的・地理的な事情にあわせて独特な発達を遂げた航空機には昔からファンが多いものです。サーブ社伝統のデルタ翼ジェット戦闘機、ドラケン・ヴィゲン・グリペンの三世代をそれぞれ1/48で紹介する作例はハセガワ・エアフィックス・イタレリの模型メーカー3社ごとの設計のクセやキット開発年代の違いによる品質の差を感じさせないスケビならではのクオリティの高い記事となっています。ドラケンとグリペンの間に挟まれてイマイチ機体人気にもキットにも恵まれないヴィゲン(3世代ものってだいたい2世代目がワリを食うものですね)は自国機キットのディティールアップパーツを積極的に開発しているマエストロモデル製のレジン・エッチングを使用して、古いエアフィックスのキットを現在の目で見ても遜色ないレベルにアップデート。ドラケンはハセガワのF/J型をやはりマエストロモデルのパーツを使用してB型へとグレードダウン(?)させ、最新鋭のグリペンはCMKのパーツを使用した正統派なディティールアップ記事となっています。
やはりスウェーデンの飛行機と言えば真っ先に上がるのはこの3つでしょう。こと日本に於いてはドラケンやグリペンは「エリア88」や「群青の空を越えて」といったエンターテインメント分野から生じた人気も多く、長く続いた航空自衛隊次期主力戦闘機を巡る井戸端論議でもグリペンを強力にプッシュする方々が見受けられたものです。そんな事情も鑑みて、普段は飛行機模型、模型雑誌に手を出さないような方でも今月号は楽しめるものかも知れませんね。
しかしヴィゲンの人気がいまひとつぱっとしないのはなんとかならんものか。いやほらイカ娘デカールとか似合う外観だと思うんですけどどうでしょうか、ダメでしょうか。
この三機種だけ出しておけば大丈夫だなんてことは全然なく、今回はもっと以前、第二次大戦直後からスウェーデンの防空を担った機体も作例記事が掲載されています。
ランセンはこれが初の製品となる新興メーカー、タランガスの1/48キットをレビューする内容、双ブーム式の特異なレシプロ機J21Aはスペシャルホビーのインジェクション、見たまんま「樽」な名を持つトゥンナンはAZモデルの「決定版」が製作され、美しい見開きのフォトが掲載されていますが、ここは敢えてエレール1/72の古式ゆかしい凸モールドもそのままに仕上げられた一品をスキャン。
作例以外にも様々な記事・イラストやページ下端のミニコラムに至るまで、今月号は歴史的背景や現在の社会・文化の風潮等などスウェーデンに関する様々な事柄が満載です。これ一冊読んでおけばWeb上でそこそこマニヤっぽく振る舞える…かどうかは…
滝沢聖峰のコミックスも今月はスウェーデンがらみのお題、ビアフラ紛争に個人的(!)に結成した義勇空軍で参戦していたスウェーデン貴族、カール・グスタフ・フォン・ローゼン伯爵の爆撃行を描いた「伯爵は休暇中」が掲載されています。ロケット弾積んで爆撃する小型練習機もサーブ製ならナイジェリア政府軍の防空火器もボフォースの40ミリで、中立国スウェーデンと国際社会の一筋縄では捉え難い関係が伺える小品。どこにも書いてないけれどこの漫画の語り手(のモデル)はフレデリック・フォーサイスで「ビアフラ」と聞くと色々とムラムラするひとにオススメ。そういえばSF作家のカート・ヴォネガット・Jrが若い頃勤めていたのもサーブのカー・ディーラーだったなぁ…
連載では松本州平「改造しちゃアカン リターンズ!」までもがフィアットCR.42のスウェーデン空軍仕様と実に冊中スウェーデン濃度の高い内容ですが、その他にもバロムの1/72アブロ618テン、ウイングス1製/72スケールバキュームフォームキットのローナーL飛行艇、SF関係ではメビウス1/144「2001年宇宙の旅」スペースクリッパー等が掲載されています。
「ハイブリッドプレーンワークス」もやはりスウェーデン風味の、ドラケン改造架空のレシプロレーサー機です。改めて思うに、ドラケンって「未来の飛行機」然とした外見ですね。それは例えば20年以上前のカラーリングであるレイトンハウスブルーでさえも、単に懐かしいものではなく「20年前に戻って未来を見ている」ような気分にさせてくれるようなスタイルなのです。