大日本絵画「太平洋戦争のTBDデヴァステーター 部隊と戦歴」

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アメリカ海軍初の全金属製単翼攻撃機として太平洋戦争初期に活躍したダグラスTBDデヴァステーター(蹂躙者)についてまとめられた一冊です。

アメリカ海軍航空隊が太平洋戦争に投入した作戦機も超がつくほど有名どころから誰も知らない無名戦士の碑みたいなものまでいろいろですが、中でもデヴァステーターはとりわけマイナーな一機だと考えます。それというのも以前に、極めて個人的な体験ですが、バロムのキットをまじまじと見てたら横から「これってなんだったっけ?」と聞かれたことがあってそんなに知られざるものなのか!と、非常に驚き強烈な印象を残した体験がございまして。いやフツー知らないだろとお思いでしょうが尋ねて来たのは飛行機好きのしかもアメリカ人ですよ!?その「飛行機好きのアメリカ人」が何者であったのか、名前を明かすとわたくし非常にマズイ立場に置かれる予感がしますので敢えてここは、特に名を秘す方向でいきますけれども。

ダグラスTBDデヴァステーターはアメリカ海軍が太平洋戦争に投入した艦上攻撃機です。1934年に海軍から提示された次期艦上攻撃機の要求仕様に基づき3社が競った結果ダグラス社の設計案が採用され1937年TBDとして正式に配備されました。なんて書くと妥当で順当なように見えますが、競争相手のグレートレイクス社の案は時代遅れの複葉機でしたしホール社案に至ってはフロート付きの水上機だったとかでまるでスタート直後に周りが勝手に転んだ結果優勝。みたいな話ですね。戦争初期の内に一線を退いてしまったので生産数も少なく、華々しい話もさほど有りません。結果どうなるかと言えば、この決して分厚いとはいえないオスプレイ軍用機シリーズのボリュームでも、大抵のことは記述されてます。デヴァステーターについて知りたい人は必読!そうでないひとはたぶん一生縁が無い…

そんな充実した内容を可能とするのも必要にして十分な記録がしっかり残っているからでしょう。アメリカが戦勝国だという単純な事実を差し引いても、多くの写真や様々なリストが容易に参照できるからこその記述だと思わされます。数が少ないから記録あたるのも楽なんだろうとか例え思っても口に出してはいけないよ!

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ダグラス社の公式写真、製造現場の記録写真からは大変クリアーな状態で機体各部の詳細を知ることが出来ます。この時代、艦上攻撃機に課せられていた雷撃並びに水平爆撃(TorpedoBomberでTBなのですな)の任務を行うためにコックピットの構造は爆撃手が操縦席直下に腹這いで観測するよう設備が設けられていて、なかなかにユニークです。

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投下角度を考慮して半埋め込み式に懸架された魚雷や整流フェアリングを備えた爆弾架など「初の全金属製単翼機」として空気力学的にも様々に考慮が成された各部構造にも特徴が見受けられます。武装関係そこまで気を使っているのに引込脚は畳んでも主翼からタイヤが半分ハミ出す設計なのは如何にも詰めの甘さが感じられますが、そもそもフェアリング関連にどこまで意味があったんだろうとか、そっちの方に思いを馳せずにはいられない…

決して高性能とは言えない機体です。同時代のライバル、日本海軍の九七艦攻と比べればその差は明らかだ。単純に機体やエンジンだけの問題ではなく主力兵装のMk13魚雷の性能が劣悪だったことも、デヴァステーターが性能を発揮できなかった一因であると、記されているのですが、

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何しろ同期の米海軍艦載機はこんな連中だ。当人としては頑張ったと言えるのではないだろうか。なーにスペック的にはソードフィッシュよりも上だ。

大戦前の配備状況や運用の実態も詳しく記述されています。やはり初の単翼機ということで前任の機体と比べて特性も変わり、少なからず現場では戸惑った様子も見受けられるのですがそれでも尚、いくつもの喪失を越えて部隊の練度は高まります。この辺りは機体番号や搭乗員の正確なリストが掲載され、よく内容を補強します。

そして迎えた真珠湾、デヴァステーターは太平洋戦争の激戦にその身を投じて行きました。日本軍の侵攻を止めるべく出撃した南方の島嶼戦、珊瑚海海戦に於いては航空母艦「祥鳳」を撃沈せしめるなど戦果を上げつつ、ミッドウェイ海戦が勃発するのです。

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ミッドウェイ海戦に於ける3つのデヴァステーター部隊の編成表には戦慄を禁じ得ません。それまでのページに掲載されたものと同じフォーマットながらも、ここだけは生還者に対して「生還」と但し書きをつけねばならない。生きた人間より、死んだ人間の方が多い。3つの雷撃飛行隊に合計45機のデヴァステーターが投入され、うち42機が損失。搭乗員82人のうち68名が死亡。

この恐るべき損耗率を以て、海軍航空隊におけるTBDデヴァステーターの戦歴は事実上の終わりを迎えます。奇跡の勝利の陰に、ひっそりと消えて行ったのです…

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TBDデヴァステーターの就役時期は1930年代末期から40年代の初頭、米海軍機が平時のイエローウイングからネイビーブルー塗装に切り替わる過渡期に位置します。ために塗装パターンの多くはどちらか2種に大別されるもの。それほどの目新しさはないのですが(一機だけ製造された水上機型TBD-1Aは形そのものが面白いです)

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その中でも軍艦の塗装パターンを意識して施された「バークレー」迷彩塗装は目を惹きます。効果が低いとされて普及はしなかったそうなのですが。

「スペック的にはソードフィッシュよりも上」と息巻いてみてもよいのですが、やはり現代まで語り継がれるのはデヴァステーターよりはソードフィッシュの方でしょう。軍用機の価値はまずはその上げた戦果にこそあれ、その他の要因は言ってみれば付け足しです。マニアのお遊びのようなものです。後世の我々の目から見ればダグラスTBDデヴァステーターは失敗・駄作のリストに献上される仇花のひとつに過ぎないでしょう。けれども当時のパイロット達にとっては最新鋭・最上級・最高の機体であったこともまた、確かなのです。

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ノースアイランドに到着した私は、光り輝くたくさんの単葉機が着陸するのを見て思った。『いままで見たなかで最も美しい航空機』だと。そして自分もいつかあれで飛ぶ機会があればいいのにと願った。これから着任する飛行隊の所属機だとはまったく知らなかったのだ。私が見たのが第3雷撃飛行隊の飛行機だと教えられたときには、胸が張り裂けんばかりだった。あの美しい飛行機がそうなんだ!

「これってなんだっけ?」

「これはですねー、デバステーターって名前なんだけど実態はミッドウェイでデバステーテッドされちゃったっつー気の毒な飛行機でぇ(ニヤニヤ」

「あー、アレですか」

考えてみれば大変失礼な物言いで申し訳なく、いまではちょっと反省している(´・ω・`)

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