学研「今井科学キャラクタープラモ全集」

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2002年に惜しまれつつ企業活動を終了した老舗模型会社、今井科学の歴代製品群から「キャラクターモデル」にテーマを絞り、且つ1959年から69年までの間、60年代に発売されたプラモデルを紹介する書籍です。

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日本のロボットプラモデル第一号はこの「ロボット鉄人28号」でしょうか?本書は解散直前の今井科学本社を調査し、ながらく保存されていたパッケージ原画、完成見本写真などを中心に据えて構成されています。貴重な内容で資料性の高い一冊と言えるでしょう。初版ではこの鉄人、横山光輝の原作ではなく実写版の着ぐるみをトレースした形状で腹部に「のぞき窓」のディティールが存在したり成形色が灰色であったりと、以後の製品に比べてかなり異なるイメージでの立体化でした。しかしこのタイプの鉄人を「こげ茶」のプラで成形すると溶鉱炉じみててよいなあ。

イマイのキャラクタープラモとえいば言わずと知れたサンダーバードですが、他に類書が存在することもあって本書ではほとんど掲載がありません。本書の成立自体がサンダーバード本のための取材の副産物だという面もあるのですが、おかげで幸か不幸かあまり顧みられることの少ない、マイナーなモデルが多々取り上げられています。実に喜ばしいことです。原画に比べて製品そのものを紹介する割合は少ないのですが、なにしろ当時の製品群はよくいえばキッチュな、悪く言えば…

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いえ、悪く言うのは良くないでしょう。差し詰め「鉄腕アトム」モノクロシリーズ屈指の有名エピソード「ミドロが沼の巻」を思わせる造型ですね。

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近年ではニコニコ動画などで若い世代を中心とした「黄金バット」人気などもありますし、この辺りのマスコットプラモデルが再評価されてしかるべきかも知れません。いまでいうところのデスクトップアクセサリーに近いコンセプトではあるのです。この手のモデルを最後に見たのは縁日の夜店で、くじびき下位の賞品だった思い出がほんの僅かに残っていますが…

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いまと比べて「水モノ」が多いのも古い時代の特徴ですが、この発想は無かった。なんてハードボイルドなプラモデルなんだ。しかし当然のことながら、中身の方はここまでハードでは、ない。箱絵と中身の違いと言えば中身は同じで箱絵を変えた商品、漫画家・模型研究家の(故)はぬまあん氏が提唱したところのいわゆる「転生プラモ」が多く見られるのは当時の一般的な風潮ですが、高荷義之画伯の描いたリアルタッチの箱絵に反して中身が「海賊王子」のコミカルなブツが入ってる イ ル カ のプラモデルっていい時代ですわあ。

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むかしのプラモデルに水モノが多いのは、昔はお子さんが夏休みに買うものだったからなんでしょうね。

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珍しいアイテムが続出する中、物によっては後年たびたび再生産もされていましたね。連結戦車クロウラー、おそらく最後の生産分が実は手元に一個積んであったり。成形色はダークグリーンだったかな。最末期にメッキ版でリリースされていたマッハバロンは、あれは70年代の製品なんで入ってないのか…

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いま現在の宇宙模型ブームは遡ってもアポロサターン止まりになりそうですけれど、ジェミニやマーキューリーカプセルのカッコ良さも、どうか再評価されてほしいものであります。

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「怪奇大作戦」放送当時にSRIのトータス号を発売してたのもイマイでした。「こうもり男」の回にイマイの四号戦車のプラモが出てきたのはその辺のつながりなんですな。ところでコイツを改造して「帰ってきたウルトラマン」の流星号に改造するツワモノはおらぬかと思ったらあの話はガセだったの!?と、ちょっとビックリする事実につきあたる。

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巻末には問屋向けカタログや組み立て説明書など紙資料の類も掲載されています。本書を通じて感じるのは、60年代当時の横山光輝人気って相当高かったんだろうなーと思えることで手塚治虫や藤子不二雄より製品化の数は多いのではないかな。カバー外すと発売年代毎のカタログになっているので、数えてみれば確かなことがわかります!数えていませんっ><

あ、「ビッグX」ってはじめて銃を武器にした巨大ヒーローだったりしますか?

「全集」と銘打たれていながら収録年代が1969年までに限られているのはこの年に今井科学が倒産の憂き目に遭っているからで、その初期の今井科学を採り上げる意味は確かにあると思うのですが、キャラクターモデルに限らずスケールモデルも取り上げられていれば、後にバンダイに売却され現代のガンプラ文化につながる流れの源流が実は今井に有ったのだという、そんな内容を構成出来たんではないかなーと、その点ちと不思議だったりもしますが。

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ま、あまり小難しい事を考えずに当時の時代風景、空気の匂いを楽しむがいちばんだろうと思います。「バカラスの兄アホラス」とか言っちゃダメです。それは80年代のセリフなのです。

余談。

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80年代を席巻したモデラー集団「ストリームベース」、恥ずかしながらそのネーミングの由来を本書で初めて知りました。小田雅弘氏がモデラーとして活動されてたのを最後に目にしたのはアニメ雑誌「NEWTYPE」の連載記事だったけど、そういえば「青の6号」について熱く語っていたなあと、それは90年代の風景ですが。

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