文芸春秋「静岡模型全史」

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静岡模型教材協同組合編集による、静岡ホビーショー50回を記念した大型書籍です。

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「50人の証言でつづる木製模型からプラモデルの歴史」とサブタイトルが冠せられている通り、ながらくこの業界を担って来られた人々の「証言」を中核にすえた内容です。終戦直後のみならず戦時中のエピソードから語り起こされるページもあるところなど、まるで日本経済新聞「私の履歴書」の模型業界版といったところでしょうか。カラー写真が掲載された大御所の方々はダークスーツに黒バックのシックな写真で、コッポラの映画音楽が相応しい雰囲気ですね。創業者だけではなく各メーカーとも中核、若手のさまざまな方の証言が掲載され、その辺りをタテヨコの軸で読み捉えると面白い…のは、それもやっぱり「私の履歴書」みたいだな。

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模型メーカーだけでなく、関連企業やイラストレーターや一個人としての模型ファンなど、この文化を支えて作った様々なひともまた「証言」なされています。木工からプラスチックモデルへと静岡県の地場産業が変化していくなかで、「静清信用金庫」が果たしていた役割は外部の人間には想像もつかないほど大きかったでしょうし、それはまた従来の関連書籍ではあまり記され難いような事柄でもあります。なかなかに貴重です。

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静岡ホビーショーと共に同時開催される合同作品展の歴史もまた貴重な記録でしょう。特に昨年開催された第21回では参加全サークルのメンバー写真が掲載されてます。普段はご家庭内でヨクアツされているモデラー諸氏も「こんな立派な本に写真が乗ったぞ」と、きっとご家族に自慢できますよ!

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常々「これは誰かがちゃんと記録をとっておくべき」と考えていた静岡ホビーショー、毎年ごとの告知ポスターが(全部では無いですが)掲載されているのは実に貴重であり案す。例年これにはどうみてもガンダム「らしきもの」が描かれていて皆を楽しませてくれるのですが…

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第36回(1997年)ポスターに描かれてるのはどうみてもガンダム「じゃないもの」です。まさに世相!

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この種の模型文化史本ではお約束ですが、巻末には昔のカタログからの抜粋が掲載されています。タミヤの古い「T-10 JS-IIIスターリン」、名称表記もさることながら「名実ともに世界一の重戦車です」というキャプションもまさに時代で СУМИРЭ Здравствуйте ! って感じですねー。

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「証言」のなかには去る10月8日に物故されたイラストレーター、梶田達二氏によるものも収録されています。長年に渡ってスケール・キャラクターを問わず様々なジャンルのボックスアートを手がけて来られたベテラン画家で、それでいてこれまであまり表に出ない方だったように思われ、貴重な証言を得られたことを感謝すると共に、末尾ながらご冥福をお祈りします。

…しかしこの本、女性の方の「証言」はひとつも載っていないなあ。そういう「時代」を証言するものでもあり、「次の50年」を証言する時には状況かわったりするかなーとか、思いますね。

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