河合商会「1/25 金魚や」

f:id:HueyAndDewey:20130419090509j:image

昨年惜しまれつつ企業活動を停止した老舗の模型メーカー河合商会の「風物詩シリーズ」No.14、夏の風物をイメージさせる製品です。

ところでこのキット、箱絵には「金魚屋」と漢字三文字で表記されているのに取説では「金魚や」とひと文字開かれています。些細な違いだけれどかな交じりの方が「やわらかい」ように感じるのは日本語の妙で、こういうニュアンスの差異をグローバルな世界に発信するのは難しいでしょうね。

f:id:HueyAndDewey:20130419090615j:image

同シリーズNo.15の「風鈴屋」と大部分のパーツを共有するリヤカー+屋台のパーツ構成です。

f:id:HueyAndDewey:20130419091531j:image

板塀を含めて路地裏の風景を再現するディオラマ風のスタイル。

f:id:HueyAndDewey:20130419091654j:image

屋台の売り物である金魚と周辺の小物はクリアーパーツ、リヤカーのタイヤスポークにはメッキ処理が施されています。

f:id:HueyAndDewey:20130419091713j:image

台座はシンプルな形状ながらラメ入り樹脂による成形はちょっと「土産物」風にも見えます。

f:id:HueyAndDewey:20130419092050j:image

その他の付属品、柳の木は「建物シリーズ」として単独で発売されていたものを同梱するスタイルで、薄緑の「カラーパウダー」は鉄道模型の世界では古くから定番の逸品です。このカラーパウダーの開発事情はむかしモリナガ・ヨウ氏がマンガにしていて面白かったなあ。河合商会を始め「35分の1スケールの迷宮物語」で取材されていたいくつかの事柄や人物は、既になくっなっているのだと思うと急に寂しくなります……。

f:id:HueyAndDewey:20130419093151j:image

漠然と「昭和レトロな」なんて言い回しを使ってしまいそうですが、本キットの年代設定っていつごろなのでしょう?さすがにこのスタイルで流しの金魚屋というのは実生活で見たことが無いぞ。Wikipediaの「リヤカー」項目によると

「1921年頃、海外からサイドカーが日本に輸入された時にサイドカーとそれまでの荷車の主流だった大八車の利点を融合して、静岡県富士市青島の望月虎一が発明した」

とありますからって青島!?

いや待て、そこは反応するところじゃないぞ。まーともかく、リヤカー自体は大正から存在し広く一般に普及するのは昭和初期ということでよろしいか。思うにこの手の金魚屋を見なくなったのは安価な金魚の供給源として「金魚すくい」が普及したからではないか……というのは本稿とは全く関係が無いので触れませんけれど、やはり昭和史の暗部では流しの金魚屋一門と新興の金魚すくいグループによる血の抗争とかあったんだろうか。無いとは言い切れないのが水商売の恐ろしいところで(えっ)

f:id:HueyAndDewey:20130419094340j:image

クリアーパーツでワンピース成形の金魚は大中小の三種類。尾びれが垂れ下がっているのが芸の細かいところで、こういう気配りをすることで弁当のしょうゆ入れに成りかねない危機を回避しているのです。蘭鋳やら琉金やらといった高級指向の観賞魚こういった庶民的な場では売って無いでしょうから間違ってもそういう方向でディティールアップとかしちゃいけませんよ?

f:id:HueyAndDewey:20130419094832j:image

芸が細かいと言えば街頭の共同ゴミ箱は口が開きます。コンクリート製のものはかろうじて形を見た覚えがありますが(さすがに機能はして無かったな)、これは木製品をイメージしている成形のようですから木目を入れたり実物同様前面の扉をスライド式にするのも良いでしょう。むかしは今ほど家庭ゴミの分別が細かくなかったのだけれど、むかしは今ほど家庭からゴミが出なかったのでしょうねえ。

むかしも今もモデラーの家からはランナーがゴミに出るのは変わりがないか……

f:id:HueyAndDewey:20130419095404j:image

この手の板塀は現在では一般的な実用品としてはまず見ないものですが、古民家的なスタイルの建築ファッションや旅館や料亭などの場では健在か。板塀ひとつとってもそれがコンクリートやブロックの塀に変わり国産木材の需要減少を招き結果山林にはスギ林が飽和し花粉症が社会問題となるのです。おおぅプラモデルから見える日本社会の変化と変質。

f:id:HueyAndDewey:20130419100024j:image

物干し台が現在と比べて背高なのは二階建て家屋が少なかったからかな?Y字型の長い棒で物干し竿を上げ下げする光景は「よそんちの柿を盗む子供」と共にゼツメツしました(かね?)

f:id:HueyAndDewey:20130419100500j:image

物干し竿自体は竹製なのでささやかながら「節」がモールドされています。ちょっと前に「さおだけ屋はなぜつぶれないのか」ってべストセラーがありましたが、最近さおだけ屋を見かけません。あれもやはり無くなってしまったのかなー。

f:id:HueyAndDewey:20130419100713j:image

リヤカーは鉄パイプを組み合わせた標準的な構造のものです。また屋台をセットするのが前提なために荷台部分の板材は特に付属していませんが、ハンドル部分をみると風物詩シリーズ「紙芝居」の自転車と結合できそうではあります。

f:id:HueyAndDewey:20130419101440j:image

タイヤ部分にトレッドパターンは刻まれていませんがある程度はボウズな方が却ってそれっぽいのかなーとも。スポークの太さが気になる方はアベールやエデュアルドのエッチングがあるわけないので頑張って自作だ。

f:id:HueyAndDewey:20130419101724j:image

リヤカー部分はこんな感じです。サイドのフレームはイモ付けでちょっと接着面が弱いので、パテなど使って溶接痕を再現してもよいでしょう。また風物詩シリーズの「石焼いも」などでは屋台と一体構造になった木製のリヤカーもモデル化されていますので、用途に合ったものをお選びください。

f:id:HueyAndDewey:20130419102256j:image

こちらは屋台部分、基本は箱組みで合わせは良好。特徴は上部に三本の桁を有することで(この画像では二本しか映ってませんが)、「風鈴屋」のキットではここからいくつも風鈴をぶら下げる重要な箇所となります。

f:id:HueyAndDewey:20130419102555j:image

まー金魚やでは行燈ぐらいしか下げるものがないんですけど。説明では「シール」になってますが実際はただの紙に印刷されたシートで、プラパーツには木工ボンドで接着出来ます。木工ボンド最高。でもこれって多分初期ロットではシールだったのがいつのまにかコスト減で単なる刷り物になって…とか、そんなんだろうなあ。

f:id:HueyAndDewey:20130419102907j:image

行燈下げてのれんと屋根を乗せれば屋台部分もこの通りに完成です。

f:id:HueyAndDewey:20130419103025j:image

ベースのレイアウトは斜め方向に使って空間の広がりを演出してみる。なおカラーパウダーと柳の木は粉気が飛ぶのでちょっと今回は使っていません。その方が土産物テイストなラメ台座を活かせるように思います。

f:id:HueyAndDewey:20130419103330j:image

金魚関係は色を乗せてみました。水草はともかく岩までクリアーパーツなのはいささかアレですけれど、パーツ配置と分割考えたらこれで正解です。ここもホントは「水」を張りたかったけれど、水槽や金魚鉢を塗装すると肝心の金魚が見え難くなるアンピバレンツ!

f:id:HueyAndDewey:20130419103626j:image

一通りそろえてみると金魚がメインというよりも、やっぱり屋台含めた全景が「風物詩」としてメインを飾るのでしょうね。「物干竿に紙で洗たくものをこしらえて下げると、情景がいっそう引き立ちます」という一文も、今のプラモデルには無い空気感で良し。

f:id:HueyAndDewey:20130419112836j:image

アップにするとやはり人間がほしくなりますねー。ホントはここで何かキャラクターフィギュア使って小芝居でもやらせればイマドキなんですが、1/25サイズに合うものが結局思いつかなかった……むしろいま様々なものがプラモ化されてる1/12サイズの小物でなぜリヤカーがないのか不思議です。大抵の学校には備わってる物なのにね。ああタミヤの10式と合わせて1/35スケールで「リヤカー(陸上自衛隊)」なんてのもいいのか。

f:id:HueyAndDewey:20130419104421j:image

オチが付かないと落ち着かないので代わりにむかしのホビージャパンから「風鈴屋」の記事をスキャンしてみるテスツ。93年8月号ってもう20年前になるのかこのコレ……。比留間郎氏による作例は各種風鈴ディティールアップのほか洗たくものもちゃんとこしらえて、風物詩シリーズの持つポテンシャルを最大限引き上げたような作例です。これは90年代前半にやってた「AMAZING KIT BOX 模型ビックリ箱」という不定期連載記事でのことで、普段模型雑誌が取り上げないようなプラモデルを本気で作り込んでいくちょっと変わった企画でした。城郭模型ブームに20年先駆けて童友社のノイシュヴァンシュタイン城を実物指向で再現とか東京ドームのプラモデルとか、業界的にも読者層的にも売れ筋メインから外れている製品を極めて趣味的に取り上げる内容が実にユニークで、タミヤのMMが盛り上がりを見せ始めてたこの時期にニチモのキングシャークなんて作ってたんだぜ(遠い目)

編集・ライター含めて一部の限られたメンバーで回してたようでいつの間にか終わっちゃったし単行本にもなってない。むかしの模型雑誌の思い出を語るような場所でもまずお題にならない類のものですけれど、個人的には大好きな連載でありました。しかし90年代ってもうすっかりレトロな位置に落ち着いてるのですねえ。

あ、「極めて趣味的」などと書きましたが、当時水面下でどこかの問屋筋が絡んでいたのかもしれん。そんなことを思いつくのも自分がイヤな大人になった証しというものかー!

あわせて読みたい