1/32 ソッピース・スナイプ 前期型 by ウィングナットウィングス – パート2 – 作り
私は、非常に長い時間をSFやファンタジー作品のキットを作成することに時間を費やしてきた。 それらは、私自身の想いと強く共感するものであり、言うなれば「心の影」とでもいえるものである。
もちろんそれは、全く責められるものではないが、スケールモデル、特に戦争題材としたモデルを作成するたびに、それらのモデルとなった実機に関わった人々が、苦しみながら戦い、時には死に至ったことを思わずにいられなかった。
私は、そのような兵器の持つ重力とでもいうべきものが、我々モデラーは単にキットを組み立てて遊んでいるだけではないという事を気付かせてくれる。
私のわがままを許していただけるのであれば、私の本業から少しの知識を引用してみたい。
日本の土着の信仰である神道では、この世界の全ての物に魂があり、この魂がその物の有り様を規定し、命を吹き込み、その物に目的を与える。と考えられている。 その魂は、「神」であり、様々な階級の無数の神が存在し、「八百万の神々」という言葉さえある。 この信仰は一見して分かりやすい人物、動物、植物、神聖な物であったり要素的な物であったりに適用されるように思われるが、実際は何であっても神となる可能性がある。
特に、目的を持って制作された物体は神となりやすい。 刀は戦いの魂を吹き込んで作成する物だし、家は様々な家庭に関する神と関連づけられている。 プラモデルでさえ、何かしらの神聖な要素とむつび付けられるかもしれない。
このように書くと、私が雑学の縁に問題を追いやろうとしているように見えるかもしれないが、今回の題材には適用可能な視点だと考える。 私の感覚では、スケールモデル(歴史的なキット)を作成しているとき、例えば「メメント・モリ」(ラテン語で「死を記憶せよ」という意味の警句、訳者追記)という言葉に関連づけられた小さな聖霊の存在を感じ取ろうとせずにはいられない。
Wingnut Wingsシリーズの場合は、シリーズに同時代のライバルとなる飛行機がラインアップされていることと、その飛行機に搭乗していたパイロットに関する詳細情報がマニュアルに記載されていることが、より小さな聖霊の存在に説得力を加えている。
以上を述べた上で、オーストリア空軍、第四小隊Thomas C.R.Baker (1897-1918)を紹介したい。
イギリスが、最終的には第一次世界大戦となった様々な矛盾を押し広げていた頃、オースリアを含む女王の支配圏は、旧世紀からの呼びかけに答えていた。
死の砂に埋もれたガリポリ半島から、灼熱のエジプト、雨に浸かった塹壕のフランス、ポリネシア諸島に至るまで、全て女王の呼びかけに答えるべく奮闘していた。
Thomasは1915年に入隊し、陸軍の砲手としてエジプト、フランスで戦った。そこで、彼はいくつかの軍功や勲章を受ける活躍を見せた。 彼の勇敢な働きは、彼の上官の知るところとなり、巡り巡って年若い模型飛行機のファンであったThomasをオーストリア空軍に、当初はエンジニアとして、入隊させるに至った。
しかし、当時の航空機戦闘での死亡率は非常に高く、エンジニアとして入隊したThomasだったが、戦闘機乗りとしての訓練を受け、1918年のはじめ以降、何機かの戦闘機に乗ることとなった。 彼が乗った戦闘機には、今回作成する Sopwith Snipeの Ref.E8069 も含まれている。
当時最速の飛行機ではなかったが、Thomasはこの敏捷で、小回りのきく機体をいたく気に入り、Fokker Dr.VIIsを相手に一日5機を撃墜して見せた。(彼はトータルで12機のFokker Dr.VIIsを撃墜している)
しかし、多くの若者が直面したように、彼にも最後の審判の時が迫っていた。
1918年の11月4日、終戦のほぼ一週間前、彼は大規模な空中戦にかり出された。 その戦いは、堕落したドイツ軍を、全面撤退させるための戦いであった。 このミッションの一部として、オーストリア空軍の第四小隊は、爆撃機の帰還を援護する役目を担っていた。 その道中、Dr.VIIの一団が爆撃機に襲いかかった。 第四小隊は、激しい格闘戦の後、ドイツ軍を退けたが、その代償として3機が撃墜されその中に Thomasの機体も含まれていた。 Baker機は、おそらくドイツ軍のエース Karl Bolleに打ち落とされたと考えられる。
私の認識では、Thomasはその死後に勲章(Distinguished Flying Cross)が授与されており、現在に至っても、飛行機にあこがれる人々の間で、最も想像を刺激する空の騎士の一人に数えられている。 どちらの陣営に属していたとしても、それらの勇敢な男達は、大空のキャンバスを舞台に一騎討ちを繰り広げ、それは、それ以前の馬に乗り、槍で戦った騎士達のそれに比べ、非常に堂々とし、また颯爽とした戦いであっただろう。
今回の作成は、非常に重要な物となるだろう。 ただ、今回の作成だけでは、このキットは完成とは言えない。 この機体には、糸を張る必要があるが、それは適した材料を入手した後に行う事としよう。 その作業を行った後、このレビューをアップデートしたいと思う。
全ての Wingnut Wingsシリーズのキットは、内装が非常に細かく再現されている。 私がみたところ、コクピットのディテールに関しては、完全に再現されていると言える。 しかし、この点は私にとっては、それほど重要ではない。 なぜなら、一度組み立ててしまえば、二度と見ることがない部分であるからだ。 (^_^;)
このキットのモールドの出来は本当に素晴らしい。 全ての翼桁、接続部分、リベット、トリムに至るまで、完全に再現されている。 これほどしっかりしたディテールだと、作成する者にとっては、非常に気が重い。
2:胴体
この写真から、Snipeの胴体が丘状に盛り上がっている事が見て取れる。 これこそが、Snipeを戦闘機のプラットフォームとして素晴らしい物としている。 短く、ずんぐりとして、しかし他の戦闘機にはまねの出来ない視界をパイロットに提供しており、必要であれば、上部翼の向こう側を見ることも可能であった。
制作という観点からいうと、今回は再びプレ・シェーディング技法を採用することとした。これは、翼下部のうねりを表現するためであり、翼の骨組みを白地に黒を重ねることで浮き立たせた。 私はタミヤに全幅の信頼を置いている。 タミヤ・カラーを使用している限り、この飛行機の完成形が「空飛ぶ縞馬」にはならないはずだ。
4: エンジン
このエンジン部分は特筆に値する。 もし、このキットの正確性と再現の細かさを疑うのであれば、この放射状の機械に見られる美しさを確認することで、そのような疑いは一瞬で晴れるに違いない。
5: 影付けと塗装
タミヤXFシリーズの塗料をX20薄め液と50対50の比率で混ぜ合わせる。 私が求める仕上がりを得るためには、何層かの塗装が必要だった。 塗料を何層かに重ねることにより、最終的な仕上がりに深みが増し、下塗りに使用した黒のラインが、私が予想したとおり、影としての効果を発揮した。
7: 仕上げ
皆さんは、これらの戦闘機がどれほど漏れた油や、排ガスその他で汚れていたのか想像も付かないだろう。 初期の航空機用エンジンは、タンクからキャスター・オイルを吸い上げ、これを潤滑剤として使用していた。このオイルが機体を、特に機首周りを非常に短時間で油膜がはるほどに汚していった。
今回、プロペラに施したトリムは、時代錯誤的なものであった。 私は何を考えてこんな事をしたのだろう? これは修正しておこう。 (^_^;)
この状態は、完成からではないが、完成からそれほど遠い状態でもない。 完成状態に持って行くためには、張り糸に適した素材を、それも多めに入手する必要がある。 Wingnut Wingsのシリーズは、これ一機ではないし、私自身もこれを最後にするつもりはない、と言うのがその理由だ。
糸を張る作業を、今回は行わないと決めたため、翼を含むいくつかの部品、ディテールを固定しない状態で、今回の作成は終了している。 必要な材料が手に入り、この機体を完成させた暁には、アップデート・レビューをお届けしたいと考えているが、今回の作成でこのキットの全容については、ほぼお伝えできたのではないかと考える。
誤解しないで欲しいが、もしあなたが航空機のモデルを好まれるのであれば、Wingnut Wingsから最低一機は体験しておくことをお勧めする。
ローボーダズ