TANKOGRAD「ANZAC オーストラリア・ニュージーランド 合同軍の軍用車両」

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Australian and New Zealand Army Corps 略してANZAC の歴史は第一次世界大戦の時期にはじまり、現在に至るまでオーストラリア・ニュージーランド両国の密接な協力の下に運用されています。両国とも世紀をまたいだ100年以上の時代にあって政治的なスタンス、方向性は様々に変化していますが、軍事面での強固な繋がりが損なわれることはありません。本書はそんなANZACの陸軍配備の新鋭車両を中心とした写真集です。オールカラー64ページ、本文キャプションはドイツ語/英語併記。

ところで、Army Corps というぐらいですから陸軍の本だと短絡的に理解しがちなものですけれど、両国海軍では「アンザック級フリゲート艦」(ニュージーランド海軍では「テ・カハ級」名義)が運用されているのですね。Navy Corps 略してANZNC にはならないのであります。

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南アフリカやカナダなど旧英連邦諸国では装輪式の歩兵戦闘車が多用されている感がありますが、オーストラリアのその例にもれず早くからスイス・モワク社のピラーニャIをASLAVとして導入しています。国連PKOなど海外派遣任務には多用される車両で、最近ではイラクやアフガニスタンでの運用がよく報道されています。

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若干導入が遅れたニュージーランド軍では同じモワク社でもより大柄なピラーニャIIIをベースとしたNZLAVが運用されています。軍隊規模が小さなNZ軍の方がより強力な車両を使用しているのは興味深いところでは在りますが、ASLAVはアメリカ海兵隊のLAV-25、NZLAVはアメリカ陸軍のストライカー装甲車とほぼ同型の車両となりますので模型的にも作りやすいもの。ああASLAVはトランペッターでキット化されていましたか、実際の運用状況は格好の製作資料となるものです。

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トラックなどの支援車両ではドイツ製の車体が多く見受けられます。とはいえダイムラー・シュタイアー製のピンツガウアーは現在BAEランドシステムズによって製造されていて、ではBAEランドシステムズは果たして「イギリスの」軍需企業なのかといわれるとそれはそれで疑問でもあり。合併や合同による国際化が進んだ現代の軍事企業・兵器に「国籍」を問うのはあまり適切な行為ではないのかも知れません。その点では日本はちょっと独特な――特異な――立場で、あまり日本の基準重視で世界を見ないほうがいいのでしょうね。

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MBTに関してはかつてレオパルド1を運用していたオーストラリア陸軍ですが、現在ではアメリカ製のM1エイブラムス(さすがにエイブラムスはアメリカの戦車と言って良いでしょうね)が導入されています。M1A1 AIM SA、A1のアップグレードAIM仕様に準じた車体の、NATO迷彩よりは明るいトーンの三色迷彩や同地の植生を活かした独特のカモフラージュが興味深いところ。しかしオーストラリア陸軍ってあんな広い大陸にMBTは59両しか配備していないのか。まあ戦車持ってても一体何と戦うつもりなんだろうって地勢状況で、オーストラリアの仮想敵ってどこなんでしょう?巨大化したカンガルーとか復讐心に燃えるタスマニアデビルとかだろうか。

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タミヤのミリタリーミニチュアで唯一のオーストラリア軍アイテムとしてラインナップされた「M113ファイヤーサポート」を作られた方も多いでしょう。キット化された車両はM113にサラディン装甲車の76.2mm砲塔を装備したものでしたが、当時豪軍にはいくつか独自のM113改装車両が配備されていて現在でもその子孫M113AS4装甲車が運用されています。外見上は小型の銃塔と増加装甲を追加した違いがありますが、車体や駆動系も様々な国際企業の手によってアップグレードされたものです。

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そしていま最も注目されているのはオーストラリア独自開発によるブッシュマスター装甲車ではないでしょうか。陸上自衛隊にも少数ながら導入が決まった本車の、IEDジャマーと地雷処理ローラーを装備した姿やリモート操作による銃塔などの様々な運用形態が収録されています。ショーケースモデルのキットは品切れですけれど、いずれキネティックから出るという話がありますね。陸自に導入されたら国内メーカーに頑張ってほしいところなんですけれどね……

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現代の陸軍の在り方として車両的にはいろいろ見どころのあるANZAC両国ではありますが、砲兵はすごくヒマそうに見えるぞ。ニュージランド陸軍の砲撃演習はどこか牧歌的な光景をかもし出していて同国を巡る安全保障状況の平穏さが伺えるようです。1980年代に核兵器搭載艦艇の入港を拒否してアメリカがANZUS条約のニュージーランド防衛義務を停止してもなんら問題は無かったし、2000年に労働党政権が「ニュージーランドは外国からの直接的脅威に直面しておらず、大規模な武紛争に巻き込まれる可能性は小さい」として大胆な軍備縮小を実行してもオーストラリアとの関係は変わらぬままANZACの体制は維持されています。

隣近所にヘンな人が住んでないってうらやましいですねえ。というのを如実に示す一冊でもあり。

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