Valiant Wings「ホーカー タイフーン」

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ヴァリアント・ウイングス社のエアフレーム&ミニチュアシリーズ第二弾はホーカー・タイフーン。自国製の戦闘機を採り上げた内容は前作 Me262より一層濃いものとなっています。

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英国の「第二次大戦3大役に立った飛行機」といえばランカスター、モスキート、スピットファイアが挙げられますが、なかでもタイフーンはその際立った美しさで知られています。本書は副題に“Including the Hawker Tornado”とあるようにタイフーンの無名姉妹機トーネードについても記されていますが、有名な兄弟機であるテンペストについてはほとんど触れられていませんので注意。

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実機+模型の2部構成を取る編集に関しては既刊 Me262と同じフォーマット、実機解説に於いては実戦運用よりも開発過程に重きを置いているところも同様です。ホーカー・ハリケーンの後継機種として開発されたふたつの戦闘機、ロールスロイス・ヴァルチャーエンジンを搭載したトーネードとネイピア・セイバーエンジンを搭載したタイフーン、エンジン以外はほとんど同じ(エンジンだってほとんど同じ)なこの機体が、しかしラジエーター配置が異なるだけでこうも印象が変わるものだと側面図を比べれば一目瞭然ですね。

結局ロールスロイス社が「ヴァルチャーなんて作ってらんね。」となったことでトーネードは廃案となるのですが、その後もブリストル・セントーラスエンジンを載せるために円形カウリングへと改装されたトーネードについてもページが割かれています。なんでそんな似たような飛行機を同時に作りたがったのかは謎です。

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ボクシングで言えばゴングと同時に相手が心臓発作を起こして勝利を得たようなタイフーンでしたが、迎撃戦闘機としては完全な失敗作、戦闘爆撃機に転職したら大成功で少数が生産されたMkIaから主力生産機のMkIb、更に改良型のタイフーンII(後のテンペスト試作機)各形式の変遷が丁寧に解説されています。テンペストIIの設計案は複数あるのですが、ことあるごとに機首下部のラジエーターを移設する試みがなされているのは興味深いところです。(本書では採り上げられていませんが)テンペストの主力生産機MkVがタイフーンと同様のラジエーター配置だったことを鑑みれば、それは天に唾するような行為でしょう。

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タイフーンの生産途中でもセイバーエンジンのラジエーターを移設してカウリングを円環形に変更しようとする試みはありました。両者を並べてみれば一目瞭然、タイフーンの美しさはその偉大なラジエーターにこそ憑き纏っているのです。円環形カウリングなどは埼玉県で作ったFw190も同然ですな紳士。いや実際、もしも仮にセントーラス・トーネードなどがノルマンディの空を飛んでたら、対空砲火の誤射だけで全滅していたであろうなあ…

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やはりタイフーンをしてタイフーンたらしめるのはこの美しい機首のライン取りでありましょう。オーシャングレイとダークグリーンの迷彩塗装にインベンションストライプといつもの地味な英国機カラーもこの偉大なるアゴの勇ましさで魅力倍増です。よく見ると撃墜マークが航空機より機関車と蒸気船メインで描いてあるのは自慢して良いことなのだろうかは。

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収録されてる塗装図はほとんど似たようなものですが、熱帯地域試験用にダークアースとミッドストーンで塗り分けられた機体は珍しく模型映えがしそうです。この色でみるとハリケーンの血筋を感じる(色だけか)

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しかしいちばんのキワモノはドイツ軍に鹵獲されて鉄十字とハーケンクロイツを描いた一機でしょう。機体下面全部イエローってなんだか悪い夢を見ているようだな。

しかしこの「パワーダイブすると尾翼がもげるので無理やり強化」していたり、「お洒落なカードアハッチは飛行中には開けられない」ので脱出困難な飛行機をどう評価していたのかは気になるところであります。

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模型パートになると気合の入り様は歴然としています。前回にはなかった1/48スケールの折込図面がカードア型・水滴風防型の2機分付属し資料書籍では「世界の傑作機」も挙げられて、キットリストの方では古今のインジェクションキットだけではなくレジンのディティールアップパーツやデカールメーカーの製品までをも網羅しています。この一冊でタイフーンはバッチリOKだと言って過言ではないか。作例も一層磨きの掛った作品が続々と並び、アカデミー72をアフターパーツを駆使しての徹底ディティールアップやハセガワ48パーツを図面と重ねて「3ミリ違いますね」など、とにかく誌面に漂う空気が違っているような。あまつさえチェコマスター社の72と32フルレジンキット(!)まで紹介されている…

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いやしかし、32のタイフーンは主翼のきっつい上半角や四門のイスパノ20ミリ機関砲やら、タイフーンに備わる数々の美しいポイントが強調されて実にビューティフルな模型になるものですな。翼下にならんだ60ポンドロケット弾の愛くるしさは言うに及ばず、現在1/32スケールでインジェクション航空機キットを展開している日本の模型メーカー各社も是非是非この機体を製品化してほしいものです。

きっと人気が出ますよ。

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例によっての斜め透視図(語句を知らない…)も各機掲載がありますが、今回はベースキットの指定がない。しかしシータイフーン(艦載型の試作案)には見る者を不安にさせる何かが。主脚の折りたたみ方向が逆になってるからだろうかいやそれだけではあるまい…

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そしてテクニカルマニュアルのイラストに沿っての形での実機ディティール・クローズアップ。機体表面の外板や各部のボルト・リベットの処理は現存する機体が、ロケット弾の細部ディティールは戦時中のフォトが非常に参考になります。「フィンMKI」「MKII」と進化しているなにこれかっこいいネーミングとか思い始めたら英国病も重症です。

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そんな箇所まで掲載されているのに機体尾部の「フィッシュプレート」型補強リベットの写真が載ってないのは、やっぱ恥ずかしいんでしょうかあれは。クイーンエメラルダスの顔の傷みたいでチャーミングだと思うんですが僕は(病気だ)

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そしてなによりネイピア・セイバーエンジンの液冷H型24気筒構造に度肝を抜かれるというかなんというか、頭の中にある「レシプロ航空機のエンジンのカタチ」テンプレートのどれとも当て嵌まらない、正気を失くすほどの美しさにキゼツしそう。

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(゚д゚ ) ( ゚д゚ ) ( ゚д゚ ) ( ゚д゚)

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…航空自衛隊の次期主力戦闘機はタイフーンを選択するべきです。セイバーエンジンのなかのひとたちもそう言ってます。

なお、本書を読み終えた後は可及的速やかに零戦やP-51やBf109といった普通の戦闘機の本を読んで体内の病素を取り除くか、もしくは紅茶を飲むべきです。 

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