WWP「BR52 in detail」

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第二次世界大戦中にドイツ国鉄大型輸送機関車として開発され、戦後も東欧諸国を中心に使用されたBR52型蒸気機関車を隈なく撮影した写真集です。

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原題に“Kriegslok”(戦時蒸気機関車)とあるように、この52型は戦時下での生産性を優先して設計されたいわゆる廉価版・省略型としての側面が強いのですが、1944年と大戦も末期の生産開始ながら、戦後になっても東欧圏で製造・使用が続けられていたのは基本設計の確かさ故でしょうか。戦時中に生産された個体がそのまま使われた訳ではないにしても、1970年代まで現役にあったとはちょっと驚きです。

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冒頭に戦時中ドイツ国鉄で運行されているフォトも掲載がありますが、本書の中核をしめているのはヨーロッパ各地に残されたBR52とその派生型のクローズアップです。ドイツをはじめとする各国の鉄道博物館やプライベートコレクション(!)に保存された多くの車両は動態保存が成されていて現在でも尚生きたままの姿を見、当時の在り様を伺い知ることが出来ます。

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こちらは戦後ソビエトで製造されたCSD555型機関車。ヘッドマークの赤い星が実におロシアしていますが、総じてヨーロッパ圏の機関車は塗装が派手ですね。黒一色の日本の旧国鉄やメタリックなアメリカ大陸横断鉄道とも違って、カラフルな外観を持つ機関車が少なからず見受けられる。

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とはいえ、モデラーの視点が汚いところに向かってしまうのはもう習性と言うか性と言うかとにかく業だ。板バネサスペンションを始めとするグリスアップポイントの油染み、塗装の剥がれと下地の鉄色など興味深いところ。

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最近では日本国内でも動いている蒸気機関車を見る機会は増えましたが、完全に整備が整った状態ではなくある程度レインマークや車体上部のサビ、傷などがついている実際的なウェザリングを見られるのは貴重です。

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長年にわたって加熱/冷却が繰り返されるボイラー部分の劣化や鋳鉄と板金の違いによる金属疲労の差異など情報量の高い写真も数多く収録されています。

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運転席周辺をはじめとする車内ディティールも多くページが割かれています。収録車両でも生産時期や運用国の違いから個体ごとに様々な違いがあり、その詳細をストレートに大戦中の車両に利用可能なのかは疑問を持っても良いかも知れません。しかしそれを差し引いても、得られる情報の価値は高いと感じます。真鍮製のハンドルの質感や石炭投入口の焼け具合など変わらぬところもあるものです。

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トランペッターの1/35キットを始めとして立体化されてるBR52が大抵引っ張っている、テンダー下部が角型の炭水車も取材されています。このタイプって実はあんまり一般的ではないそうで、本書でもほとんどの車両は下部が舟型の曲面を描くタイプの炭水車を牽引している…

じゃあなんで模型業界は角型ばっかりなのかとゆーと、どうもトラペがコpあーいや、参 考 に し た CMKのレジンキットがたまたまそっちのタイプだったからってのが真相らしい。それがまたスケールダウンされ完成品化されて……

閑話( ・ω・)休題

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オリジナルモデルに敬意を表す意味でも、巻末のモデリングパートからはCMKのレジンキットに迷彩塗装・追加装備で戦時下の雰囲気を存分にまとった作例を紹介してみます。装甲板代わりにボイラー側面に据え付けられた角材が、小火器の被弾ひとつで致命傷となりかねない蒸気機関車の悲哀を思わせ、そしてドイツ人はどんな時でもバケツを忘れない!

模型パート自体はトランペッターのインジェクションキットにエデュアルドの“BIG ED”エッチングセットやCMKの舟型テンダーを使用してハードにディティールアップした作例がメインです。日本の模型雑誌ではあんまり作例を見ないキットなので参考になること請け合いでしょう。

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廃棄されスクラップとなったBR52型も撮影されています。これはこれで趣きのある姿、廃墟や廃線ファンにも訴える何物かがありそうです。詫び寂び的な錆具合とかだな…

「妖精を見るには 妖精の目がいる」とは神林長平「戦闘妖精・雪風」からの一節ですが、「鉄道の目を持つ」ひとならば、もっと様々な内容を読み取ることが出来るかも知れません。ミリタリー関連で出版された本ですが、純粋に鉄道方面で読まれてもよい一冊です。

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