けんたろう所長のプラスチックモデルラボラトリー「タイヤのパーティングライン処理」

台風19号で被害を受けた皆様にお見舞い申し上げます。実際に自分も川の近くに住んでいるので、近傍の観測ポストの水位がどんどん上昇していくのを見ながら、荷物をまとめていつ避難するかという状況になるか待機するしかなく、待機中はプラモデルを組む余裕すらありませんでした。結果何事もなく済んだのですが、家から100mのところでは冠水もあり、自分はただただ運がよかっただけでした。同じ町でも床上浸水の起きた場所もあり、被災の痕跡や様子を見ると何とも言えない気持ちになります。皆様もおそらく毎日復興に頑張っていると思います。疲れないよう、自分のできるペースで歩んでください。

▲等々力緑地は周囲の水が流れ込むようにできています。スタジアムも水に浸かる憂き目にあいましたが、おかげさまでうちは冠水を免れました。きっと11月にはまたホームゲームが開かれます。大丈夫。
さてそんな恐ろしい台風で、土曜のイベントを中止にさせられながらなんとか開催されたのがF1日本グランプリです。いつもどおりとはいかずともこうしたイベントが開けることはなんとも喜ばしいですね


今回チーム・ハースのF1レーサー、ロマン・グロージャン選手が、キャンセルされた土曜には何をする?と聞かれ「タミヤのプラモデルを作るんだ」と答え、実際にタイレル6輪車のプラモデルを組んでいました。かつてこのマシンを駆ったジョディ・シェクターから「うちの実物見に来るか?」とレスが飛んできたり、気晴らしにボウリングに興じたり、グロージャン流の飄々としたプラモデルづくりはエピソードに事欠きませんでした。グロージャンは日本に来ればウォシュレットつきトイレの写真を撮って「このボタンを押すには勇気がいる……」とかコメントしたり、銀座に来てすき家(ここポイント)に入り「郷に入っては郷に従えだな(意訳)」と牛丼の並盛におろしポン酢を頼んだり、新幹線の移動は自由席だったり、名古屋駅ではおやつにトッポを食べてたり、なぜか1upキノコが胸にデカデカ印刷されたシャツを着ていたり(ちなみに今年のタイレル6輪の完成時に着ていたシャツもなかなか洒脱ですね)、ああ語ること尽きぬ愛すべきF1パイロットなのです……(撮影は彼のデビューイヤー、2009年の日本グランプリ。)



さて私もF1プラモデルは大好きです。バラバラになったウイングやエンジンの部品を触ることで、知られざるF1のテクノロジーに近づいた気になれるところ。美しいグラフィックがデカールなどに分解されていることなど、好きなポイントを挙げると枚挙に暇がありません。ただしガチで戦おうとするとF1マシンはとっても大変です。だから完成品はほとんどない……けど、なにか触っているのだけでも楽しいんですよ。”グロジャン式”F1プラモデルの味わい方も今度やってみたいと思います。



ようやく今回の本題です。F1プラモデルを作るうえで一番楽しいと私が思っている作業の話。それが今回紹介するタイヤの皮むきです。F1プラモデルのタイヤは基本的にゴム製で、中央にパーティングラインが走っています。もちろんこのままでも新品タイヤ同様ですからなんの問題もありませんが、ひと手間加えたパーツのよさもなかなかです。



▲用意するのはF1キットのタイヤ、そして余分なホイール、ミニ4駆のシャフト、そしてリューターです。まずは余分なホイール(前後ホイールなど幅が違うもの)の中心にミニ四駆のシャフトを通します。これをアホみたいにガッチリ固定します。私は瞬間接着剤を流してさらにプラパーツなどを詰めてガッチリしています。ちなみに一番左のものが先輩がかつて70年代のマシン用に作ったもの、ほかはそれを参考に80年代~の数種類のタイヤ幅に対応するために私が作ったものです


▲ここから、さらに用意するものがあります。ダンボール箱と木工用の荒い紙やすり、そしてサラダ油。あ、あと服が汚れるのが嫌な人はエプロンとかするといいでしょう。今回の作業で出る汚れは布につくと落ちません。
別に調理がはじまるわけではありません。まずダンボールのなかに一番荒い180番の紙やすりを置きます


▲そしてサラダ油を紙やすりに垂らたら、覚悟を決めてタイヤをリューターで回転させながら紙やすり面につけていきます。押し付けるというよりは表面で撫でる感じでしょうか。タイヤが空転しないように、しっかりと圧をかけていきます。おそらくそろそろダンボールの壁面が油でビシャビシャになるころでしょう。ダンボールがないと机が油地獄になります


▲タイヤのパーティングラインが消え、トレッド面がしっかり剥けたらタイヤを外して中性洗剤で洗います。タイヤが乾くと、どうですか。なんかちょうど良い感じのタイヤになっていませんか


▲これを4輪ぶん繰り返すと、タイヤの皮むきが終わります。そもそもなんでこんなことをしているかといえば、リューターでタイヤを振り回すのが楽しいから……だけではなく、ゴムの特性に理由があります。タイヤのゴムは弾力性があるためプラスチックのようにヤスることができません。そのため作業として水で冷やし(固くし)ながらヤスる、という手法がかつては言われていました。しかしこれは時間もかかるし、手も冷たいです。そこをリューターに頼るというわけですね。ちなみにサラダ油はリアルに潤滑油というわけです。ふつうにリューターで回転するタイヤを紙に押し付けたら吹っ飛んでしまいます


▲なんでこれが一番楽しいかというと、プレッシャーだらけのF1プラモデルで、唯一そういったものから逃れられる作業だからです。ガチ勢言うところの「刀の上の綱渡り」のオアシス。油を撒き散らしながらドンドンとリューターでタイヤを回すのは泥遊びのような原始的な楽しさがあります。頭の中に浮かぶレッドライト。消灯スタート。唸りをあげるエンジン(モーター)! ぶぉおん、どぉおん。タイヤが転がっている!!! 吹き出すオイル(サラダ油)、熱くなるリューター(連続稼働15分制限)。サーキットで嗅いだようなゴムの匂いが漂ってくる。タイヤ交換、さらに走るリューター。あぁ~


▲ちなみに現代のツールを試したところ神ヤス!の120番が手作業では一番皮むきをしやすいツールでした。タイヤカスがめちゃくちゃ出るので、受けを用意しましょう




オープンホイールだからこそ、タイヤの皮むきが見せられるし楽しめる。完成品にひと味添えるタイヤの皮むき、おすすめです。ではまた来週〜!




今回紹介したキットはこちら!

けんたろう/模型総合誌、月刊ホビージャパンや月刊モデルグラフィックスで絶賛活躍中。模型の腕前も確かながら「作品を残す作家タイプ」というよりも「模型を作る楽しさを探求し、発信するタイプ」のプロモデラー。


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